信じるなんて馬鹿だよ
03
ワールドポーターズを物色してアイスもしっかり食べて、俺たちは赤レンガ倉庫までのだだっ広い道をぷらぷらと手をつないで歩く。
近くなった赤レンガ倉庫の手前のほうで、何やら人だかりができている。
「なんだろ、あれ」
「さあ」
近づくとそれが何なのか分かる。何かの撮影をしているのだ。見る限りモデルがポーズをとっているだけなので、雑誌か何かだろう、映像ではない。あの暗い金髪をしたモデルには覚えがある。俺がたまに買うメンズファッション雑誌によく出ている。
「あれっ、比奈あの人知ってるよ! ドラマに出てた」
「なんだっけ、志筑レン?」
「名前分かんない」
比奈ってドラマとか見るんだな、と思いつつ、野次馬に混ざって撮影を見物する。比奈は興味津々で、視線がカメラとモデルの間をいったりきたりしている。
と、そこで指揮を執っているらしい女性のもとにアシスタントか何かだろうか、Tシャツとジーンズの若い男が近寄って耳打ちする。何か思わしくないことがあったのだろうか、女性が顔をしかめて辺りを物色するように首を回し、俺と目が合うとその動きが止まって、見つめ合うかたちになった。
「ねえ、そこのキミ」
「……俺?」
「うん、そう。ちょっと来てくれるかな」
「はあ……」
比奈の手を引いたまま、撮影現場と周囲を分けるように張られたロープを越える。女性の近くに歩いていくと、いきなりじっと見つめられて肩や腕を触られた。
「ううん、少し細いなあ……でも、うーん……」
「あの、なんですか」
「実は今日ここで撮影するはずだったモデルが熱でぶっ倒れちゃってね、代わりを呼ぼうにもどうにもこうにも……やっぱいい顔してるなあ。それ、目は本物? ハーフ?」
「はあ、まあ……」
「モデルとか興味ない?」
「え」
「服着てカメラの前に立ってれば終わるからさ、簡単よ」
「いや、でも」
「先輩、モデルするの?」
「そう、しかもこれ、ロッソの撮影だよ。あ、わたし足立と言います、よろしく」
「先輩のおうちにあるやつだ!」
「読んでくれてるの、ありがたいなぁ」
俺を無視して勝手に話が進んでいる気がするのは気のせいか? いや、気のせいじゃない。
「あの、俺やるって決めたわけじゃ……」
「割のいいバイトだと思ってみなよ、タダでとは言わないよ」
「あ、そうなんですか?」
って、やばい。金に釣られてどうする。