信じるなんて馬鹿だよ
04

 比奈をちらっと見ると、きらきらした目とかち合う。この目は、もう俺がモデルをやることが決定している。諦めてため息をつき、彼女の言うとおり割のいいバイトだと思うことにした。

「じゃあ、やります……」
「そうこなくちゃ!」

 大きなワゴン車の中に押し込まれて着替える。外に出ると、比奈ちゃんはちゃっかり飲み物までもらってパイプ椅子に腰掛けている。俺と目が合うとにこっと微笑まれ、手を振る。

「じゃあ、ここに立って」
「あ、はい」

 カメラマンが前に立ち、俺にいろいろとポーズを要求する。なんだか面倒になって、言われるがままいろいろポーズをとったり着替えたりを繰り返す。
 恥ずかしいとか照れくさいという気持ちはなくて、はやく終わらないかなあとのんきに構えていたのが功を奏したのか、撮影は順調に進んだ。

「はい、オッケー!」
「終わりですか?」
「うん。ねえ、キミすごくいいね」
「は?」

 自分が着ていた服の暑さに(なんたって秋物なのだ)車の中まで行くのが面倒になってその場で脱いだら、おまけとばかりに脱いでいる途中を撮られた。

「緊張してた様子もないし、ポーズも様になってるし、いいよ」
「はあ」
「もしよかったらさ……」
「先ぱあーい!」
「比奈」

 紙コップを両手で持ったまま、比奈がこちらに駆けてくる。

「はい、お疲れ様!」
「あ、ありがと」

 中身はどうやら俺のためらしい、比奈には飲めないブラックコーヒーが入っていた。それを一口すすって、何かを言いかけていた足立さんに視線を戻す。

「えっと、何の話でしたっけ」
「キミ、高校生?」
「はい、三年です」
「卒業後の進路とか決めてる?」
「いや、別に……」
「これ、わたしの名刺。もしよかったら連絡してきてね」
「え?」
「キミ、モデルに向いてるよ、絶対」

 言うだけ言って、足立さんは機具を片付けるスタッフの中にまぎれてしまった。長方形の小さな紙を片手に、俺はしばし呆然とそこに立ち尽くした。

「先輩、モデルになるの?」
「……いや、よく分かんない……」

 飲み終えた空のコップを握り潰し、俺は比奈の手を取る。
 進路、か……フリーターになると思っていた自分に、そんな道もあったなんて。
 今まで自分の進路なんか、考えたこともなかった。高校だって、佳美さんがせめて高卒の肩書きがないとやっていけないと半ば脅迫のように勧めるので受験した。自分に未来があるとは思ったこともなかった。自分は一生あの暗い場所で自分を殺して生きていくのだと思っていた。
 今は、少し違った。
 自分を呪う気持ちが薄れたわけではない。でも、自分ももしかしたら未来を夢見てもいいのかもしれないと思いだした。父さんに許されたあの日、俺の中で何かが色を変えたのだ。
 痛みは変わらない。母さんの言葉やルカの顔に自分の存在を否定したくなる。でも、光が差したのだ。比奈という静かで明るい、小さいけれどたしかにきらきらと輝く光が。