信じるなんて馬鹿だよ
02

 みなとみらいについて、駅から汽車道を通ってワールドポーターズを目指す。どこかで昼食をとるつもりでいたが、比奈がくんっと俺のTシャツの裾を引く。

「比奈アイス食べたい」
「それはご飯のあと」
「えー」

 カフェに入ると、客の入りはまばらで、簡単に席を取ることができた。サンドウィッチとコーヒーカップが置かれたトレイを持って席に着く。アイスを食べると言っていたのにケーキを頼んでいる比奈に少し呆れた。

「ほんと、甘党だよね」
「だあい好き!」
「これ、バナナ?」
「えっと、バナナキャラメルケーキ」
「ふうん」

 サンドウィッチをひとつ食べると、あっという間に食欲は満たされた。モカを飲みながら、ちまちまといつまでもサンドウィッチを食べている比奈を見る。視線に気づいて、首を傾げた比奈の口の端を親指で拭って、指についたパンくずを舐める。

「ついてた」
「うわあっ」

 俺が触れたところを左手で押さえて顔を赤くした比奈が、思い出したようにラテをストローですする。意味もなく髪の毛を指ですくのは、落ち着こうとしている合図だ。毛先を指に絡ませて、おたおたと視線を惑わせる。たぶん、正面に座る俺と目を合わせられないのだろう。それを分かっていて凝視する俺は意地悪だろうか。

「比奈、食べるの遅いよね」
「うっ、すみません……」
「いや、別に怒ってないけど。なんでかなって。口がちっちゃいのかな」
「ちっちゃくない!」
「そう?」

 口に収まりきらないまま視線を鋭くしても、説得力はゼロだ。俺が笑うとますます顔を赤くしてもごもごと文句を言う比奈が笑いのツボにヒットして、俺は辺りをはばからずゲラゲラと声を上げて笑った。比奈はもう真っ赤だ。

「先輩!」
「ふはっ、ごめん、ごめ、ふふっ」
「……ぷ、あははは!」

 俺が涙が出んばかりに笑っているのにつられて、比奈も笑う。最初に声を上げて笑ったとき以外特に反応を示さなくなった周囲をいいことに、俺たちはいったい何がそんなにおかしいのか自分たちも疑問に思いながら笑った。