信じるなんて馬鹿だよ
01

「お待たせしましたぁ!」
「おはよ」

 比奈のマンションのエントランス前のベンチに座ってぼんやりしていると、ばたばたと慌しく比奈が走って出てきた。
 立ち上がって、ジーンズの後ろを軽くはたく。右手を差し出すと、照れたようにおずおずと左手をそこに重ねられた。小花柄のミニスカートがひらりと揺れて、白くて細い足があらわになる。棒のようなやせ細った足の先には、白いリボンがついた華奢なデザインのサンダルがある。
 チョコレート色の髪の毛が風に揺れて、きらきらと輝いた。

「今日はどこ行こうか」
「みなとみらい!」
「また?」

 じりじりと照りつける太陽の暑さに、つないだ手が汗ばむ。離すことはしないが、比奈が居心地が悪そうにむずむずと手を俺の手にすりつける。
 夏休みに入ってから最初のデートだ。俺の家に彼女が来ることもあったが、それはデートとは呼ばないことにする。
 夏休みは、俺にとって待ち望んだものだった。生徒や先生の奇異の視線にさらされなくて済むからだ。カラコンは禁止だ、といちゃもんをつけてきた生徒指導の先生に、地なんですと説明するのにどれだけ時間がかかったことか。それ、カラコン、と聞いてくる女の子も少なくなかったし、あゆむや純太には口をそろえて「そっちのが自然」と言われる始末だ。
 電車に乗って、みなとみらいのある桜木町を目指す。電車の中はちょうどいいくらいの冷房が効いていて、心地いい。

「またコスモワールド?」
「うーん、どうしよう」
「とりあえず着いたらご飯だね」
「比奈、ケーキのあるところがいい!」
「うん」

 夏休みの電車は、混んではいないが座る場所もない。俺と比奈は手をつないだまま扉の近くに立っていて、地下鉄の真っ暗な窓の向こうを見つめていた。