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 最近、妙に視線を感じる。
 辺りを見回すと、決まってあいつの姿がある。

「いいねえ、もてもてじゃないですか、春だねえ」
「それお前だろ……」
「俺? 俺は皆体目当てだから……」
「何女みてぇなこと言ってんだ」

 天気のいいある日の昼休み。
 中庭で食後の腹ごなしに芝生に横になっていると、横で食後のデザートを食べていた尚人が戯言を抜かした。それらしく両腕で自分を抱きしめて悲壮感を漂わせているが、顔が笑っているからどうしようもない。
 一喝して身体を起こし、視線を校舎の窓に向ける。職員室や保健室などばかりで授業をするための教室がない棟の三階から、ポニーテールを揺らしてこちらを見ている女がいた。距離があるため、気付かれていないとでも思っているのか、視線は逸れない。

「最近、ずっと見てるよねぇ」
「……俺じゃなくてお前なんじゃねぇの」
「は? ないない……って、ちょっと」

 どうしてないと言い切れるのか疑問だが、尚人はきょとんと目を丸くしたあと、きっぱりと言い放った。
 とっくに食べ終えてしまった自分の分のアイスクリームのカップをちらりと見て、尚人がふと手放したアイスのカップをちらりと見る。隙を見てそれを奪い取ると、尚人が一瞬抗議の声を上げかけた。が、俺が食べ始めるとため息をついて、あきらめたようにプラスチックのスプーンをそばにあったコンビニ袋に捨てた。

「はあ……間接キス……」
「キモいこと言ってんな」
「そんなにバニラも食べたかったのか」
「うめぇ」
「まったくこの子はもう!」
「うぜぇ」

 夏真っ盛りの日差しを免れた葉桜の下は、のどかだ。
 溶けかけのアイスを口に運びつつ、窓からじっとこちらを見つめる女を見る。距離がありすぎて、俺を見ているのか尚人を見ているのか、それとも両方かはたまたどちらでもないのかは分からないが、とにかくこちらを見ている。

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