02
どうにか空の気を逸らすものはないものか、と公園を見渡したそのとき、公園の入口から凛々しい顔をした男の子が駆けてきた。それをあとから追いかけてくる、母親も見える。
「純平! 止まりなさい!」
母親が男の子に向かって怒鳴る。それでも男の子のほうは一生懸命パタパタと駆けてきて、そして俺たちを見つけた。
「ママ! そらがないてる!」
「えっ?」
母親が一瞬上を見た。そっちの意味じゃねえ。こどもはそんな、洒落た言い回しはしない。
そしてすぐに、空もそちらの存在に気づいて、ふっとわめくのをやめた。
「ないてないよ!」
「ないてたじゃん! よわっちいの!」
「よわっちくない!」
なるほど。ガキなりにプライドはあるのだな。俺は顎をさすりながら納得し、泣き止んだ空の頭を撫でる。すると、ぺしゃっと跳ね除けられた。
「ないてない!」
「おう、泣いてねえな」
「ないてた!」
そのまま、とっくみあいの喧嘩をはじめた空と男の子を見て、慌てて母親が駆け寄ってきた。
「すみません! 純平! やめなさい!」
「だってそらないてるよ!」
「ないてないってば!」
三歳児同士の喧嘩なんて可愛いものだ、と思いながらそれを生温い気持ちで見ていると、空が信じられない行動に出た。
「ないてないってゆってるじゃん!」
「空!」
空が、相手の足を自分の足ですくって転ばせたのだ。どこでそんな技覚えてきやがった。
砂場だったものでバランスを取り切れず転んだ男の子が、ぽかん、とした顔で尻餅をついて、それからうるっと目を潤ませた。
「じゅんぺいがないてる!」
「ないてな、い!」
べそをかきだした男の子が空の顔めがけて握りこぶしいっぱいの砂をかける。空がまた泣き出す。
「ああっ……純平、お友達になにするのよ!」
「空、今のは反則だ」
わんわんお互い泣きながら殴り合うふたりをどうにかこうにか、母親と一緒になだめすかして。
ふたりは結局どっかの猫とネズミみたいに喧嘩しながらブランコや滑り台で遊んでいた。
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