04



「あっ、頼ちゃんだ」
「こんにちは」
「どっか行けよババア」
「は!? いきなりひどくない!?」
「ちょっとあゆむ……」

 ドアから顔を出したすずさんにいきなり暴言を浴びせたあゆむは、けろっとした顔で自室に引っ込もうとしている。さすがにひどいよ、あゆむ。と思っていると、すずさんがあゆむにそっくりなツリ目をさらに吊り上げて言った。

「あーちゃん! そんな態度だとお姉さんにも考えがあるよ!」
「はあ?」
「昨日雷にびびって部屋から出てこなかったのとか、頼ちゃんにばらすよ!」
「すでに今言ったじゃねえか! 別にびびってねーよ動くのだるかっただけだっつの! ぶん殴るぞ!」
「はあ〜、昔は可愛かったのにねえ、台風が来ると一人で寝れなくてさ〜、枕抱えて廊下うろうろしてたのとかばらすよ!」
「うるせえよ昔のこと掘り返してんじゃねークソババア!」
「どうせ昨日も怖くてベッドの上で震えてたんでしょ? はいはい、かわいいねあーちゃんは」
「ぶっ殺す……」

 ぷるぷると震え、あゆむが殴りかかりたいのを一生懸命我慢しているのが見て取れる。
 わたしはおろおろしながらあゆむの背中に触れる。

「あ、あゆむ。大丈夫、かわいいから!」
「何の慰めにもなってねーんだよ、殴るぞ」
「ヒッ」

 どすの利いた低い声で凄まれて思わず後ずさる。そして、その原因を作ったすずさんはと言えば、軽やかな足取りで階段を下りていっているところだった。爆弾置いて自分は逃走だなんてひどい。
 後ずさったところを腕を掴まれ、わたしは哀れにも怒りに打ち震えるあゆむの牙城に放り込まれた。ベッドに押し倒されて逃げ場がないことを悟る。
 ぎらぎらと燃える目でわたしを見下ろして舌なめずりしたあゆむが、わたしの頬を撫でた。その手つきがいつになく優しいのが逆に恐怖を煽る。

「あ、あゆむ」
「俺の、どこがかわいいって?」
「え、あ、その、えっと」
「なあ? どこがかわいいの」

 頬を撫でていた手が私の両頬を挟んでむぎゅっと押し潰す。アヒルのように口を突きだした恥辱的な顔になっているだろうわたしに、あゆむがにやりと笑った。

「あのババアぜってーあとで殴る」
「ら、らめらろ」
「何言ってんのか分かんねえしお前今すげーブスだぞ」

 暴言がひどい。
 でも、結局あゆむがすずさんを殴らないことは知っているし、どうせこのあとわたしに手ひどいことをするけど傷つくようなことは絶対しないのも知っている。
 頬が解放されて、あゆむが私の制服を乱し始めた。抵抗できないように手首をその大きな手で掴まれているけど、それがかえって安心してしまうようになってしまったわたしは、もうとっくにあゆむの手の中だ。
 肌が焼けそうなくらいに熱くなっているのをあゆむが笑って、喉元に噛みついた。


20140814

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