03
「別に。そんな日もある」
「いきなり電話切ることなくない?」
「……でかい音嫌いなんだよ」
「え?」
小さく呟かれたそれは、最初意味が分からなかった。
鬱陶しそうに眉を寄せて教室に入っていくあゆむのあとを追いかけながら、わたしはその言葉を反芻する。でかい音、嫌い?
……もしかして雷鳴のことだろうか。えっ、でもそんな雷鳴くらいであんなに機嫌を悪くするとか、そんなことってあるんだろうか。
「よく分かんないな……」
ひとりごちて席につく。わたしの席は後ろのほうなので、前に座っているあゆむがよく見える。頬杖をついて窓の外を見つめる顔は、いつものあゆむだ。
はて、と思いつつ時間は過ぎて放課後のチャイムが鳴る。わたしとあゆむは並んで手をつないで歩きながらあゆむのおうちに向かっている。
「あゆむ、雷怖いの?」
「は?」
「なんか朝、そんなこと言ってなかった?」
「言ってねえよ」
ちょっとむっとしたように眉を寄せてわたしを睨みつけたあゆむは、ふいと視線を逸らして歩幅を広げた。途端にわたしの足がもつれる。
「ちょっと!」
「何」
「速いよ!」
「短足」
「うそ、ひどい!」
チッと舌打ちしてあゆむが歩くペースを元に戻してくれる。ふうん、と思いながら今度は少し角度を変えて質問してみた。
「台風嫌いなの?」
「好きな奴あんまいねえだろ」
「だから昨日、機嫌悪かったの?」
「あー……ていうか」
あゆむが何か言おうとしたところで、おうちに着いてしまう。ドアを開けて靴を脱ぎながらあゆむは続けた。
「なんつうの、低気圧が来ると、頭痛いし」
「えっ」
「何もやる気起こんねえっつーか」
「……」
「雷の音はでけえし、雨すげえ降るし風も吹くし」
「……」
「いいことなくね?」
階段を上ってあゆむの部屋に入る直前、その隣の部屋のドアが開いた。
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