02



「頼子?」
「……」

 あゆむのおうちに着いて、わたしの言葉数が少ないのを疑問に思ったのか、あゆむが顔を覗き込んできた。

「具合ワリイの?」
「……別に」
「じゃあ何」
「…………べたべたしてた」
「は?」
「さっきの子、あゆむにべたべたしてた!」

 部屋に入って、あゆむはぽかんとした顔のあとで言う。

「あいつ昔からあんなんだし」
「……友達?」
「元カノ」
「……」

 なんとなくそんな気はしてたんだけど、こうもあっさり認められると、ショックだ。
 むすりと黙り込んで、床に座る。すると、あゆむにしては珍しく、くっついてきた。

「別に、べたべたしてないだろ」

 ひどい顔してる自覚はある。なんであの子かばうの。あゆむが思ってなくても、わたしがそう思ったらそれはべたべたなんだよ。
 あんなかわいい元カノがいるなんて、想像もしてなかったから、混乱してる。もやもやが全然晴れない。あゆむが後ろから抱きしめてくれるけど、全然すっきりしない。
 別にあゆむがわたしとが初めてじゃなかったことくらい知ってるし、中学のときに誰かと付き合っていたら家が近所だろうなっていうのも、納得できるけど、でも、あんなのいやだ。なんでこんなにもやもやするのか分からないけど、もやもやする。
 あゆむにべたべたさわって、また遊ぼうねって言って、わたしのことかわいいとか言って、自分のほうがかわいいくせに。

「そんなことよりさあ」
「……そんなこと?」
「は?」

 あゆむがなんだか楽しそうな口調で言うので、なんだかいらっときた。そんなこと? そんなことなんかじゃないよ、わたしにとっては。
 あゆむの腕を振り払って立ち上がる。あゆむが、あっけにとられた表情で見ている。泣きそう。

「あゆむの馬鹿! もう知らない!」
「はあ? あ、おい」

 ばたばたと階段を駆け下りて、玄関のドアを開けたところで腕を掴まれる。

「んだよお前」
「知らないっ! 離して!」
「ちょっ」

 腕をぶんぶん振って、家を出る。速足で少し行ったところで未練がましく振り返ると、あゆむは追いかけてきてないみたいだった。追われたら追われたで困るくせに、追ってこないことがさみいしい。わたしのことなんかどうでもいいんだ、って思っちゃう。
 あゆむがわたしのことどうでもいいなんて思ってないのは知ってるはずなのに。

「ばか……」

 とぼとぼと帰路につきながら、わたしはぼそっと呟いた。
 明日、あゆむにちゃんと謝らないとって思うんだけど、なんでわたしが謝らなくちゃいけないんだろうって思うのもたしかで、だって、そんなこと、じゃないんだよ。分かってよ。

 ◆

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