03



 一晩冷静に考えてみると、余計にもやもやしてきた。
 あゆむから連絡がないのが、その気持ちに拍車をかける。いつもそうだ。わたしからばっかりで、あゆむはいつも「別にいいけど」って言うだけ。無理やり引っ張っていくのは、おうちに連れて行きたいときだけ。デートもイベントも、提案は全部わたしから。
 そんなことないって思いたいけど、もしかしてあの子にはそんなことなかったのかも、って思い始めると苦しい。もしかしてあゆむから、「どっか行こう」とか、「何かしよう」とか言われていたのかもしれない。そう思うと、すごくこわかった。
 全部あゆむのせいだ。こんなに不安なのも、さみしいのも。

「頼子」

 びくっと肩が浮いた。学校に着いて靴を履き替えているときに、背後から声をかけられる。

「なんでメールも電話もないの」

 それはわたしのせりふでしょ。
 のろのろと振り返ると、あゆむが不機嫌そうに棒立ちしていた。

「てか、なに、まだ機嫌わりいの? いつまで怒ってんの?」

 だって、あゆむのせいだよ。あゆむが、あの子の手とか拒否しないし、そんなこと、っていうし、あゆむが、あゆむが。
 じわっと視界がにじむ。こんな人がたくさんいるところで泣くの、いやだ。と思ってうつむくと、ため息をついたあゆむがぐいと手を引っ張った。

「こっち来い」
「や、やだ」
「うるせえよ」

 履き替えた上靴の音を響かせて、たどりついたのはあゆむのお城、社会科準備室。
 あゆむが慣れた手つきで鍵を取り出して、ドアが開く。中に押し込まれて、乱暴にドアが閉まる音。それから、かちゃ、って錠の下りる音。
 鍵をポケットにしまいながらあゆむが近づいてくるので、防御の体勢を取る。

「何そんな怒ってんの」
「だ、だって」
「意味分かんねえ。あれくらいでそんな怒る?」
「くらいじゃないもん!」

 思ったより、声が響いた。みじめだ。怒ってるのはわたしだけで、あゆむはなんとも思ってないのに。
 でも、言葉が止められない。

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