03



 地面に落ちてしまったからには、もう一度拾って、というわけにはいかない。花火の音をバックに、落ちてしまったりんご飴をじっと見つめる。そのりんご飴が、視界の中でにじむ。やだ、泣きそう。
 あゆむと一緒に花火見たかったのに。あゆむと一緒にりんご飴とかかき氷とか食べたかったなんでこうなっちゃうの。
 人混みから少し外れたところで立ち尽くして、涙をぐっとこらえる。右手に持っていたりんご飴を握りしめて、うつむく。
 わたしの気持ちなんかおかまいなしに、花火はどんどん打ち上げられていく。こらえきれずにぽろりと一粒涙が落ちたとき、肩を叩かれた。顔を上げると、明るい金髪が目に入った。

「あゆ……」
「泣いてんの?」

 全然知らない、ちょっと年上っぽいおにいさんがふたり、わたしの前に立っている。

「あの」
「なに? 彼氏にふられたの? かわいそ」
「俺たち慰めてあげよっか」

 腕を掴まれて、血の気が引く。小さく、やめてくださいと言うけど、人混みの中でそんな小さい声は誰にも届かない。周りの人は花火に夢中でわたしたちになんかかけらの注意も払ってない。

「や、やだ」
「けっこうかわいいじゃん。彼氏馬鹿じゃね」
「花火の穴場スポット教えてあげる〜」

 ぐいっと腕を引っ張られて、違う意味で涙が出そうになったときに、その、おにいさんのわたしの腕を掴む手が別の手に掴まれた。

「きたねえ手で触ってんじゃねえよ」
「……あゆむ」
「ああ? なんだテメー」

 きらっときれいな金髪が花火の色を反射する。そのまま、あゆむはおにいさんの手をぎりぎりと力を込めて握る。

「何すんだよ!」
「あ? 勝手に人のもんに触っといて何言ってんだ?」

 ぎろりと睨みつけると、おにいさんたちは舌打ちをしてわたしの腕を離してぶつぶつぼやきながら去っていった。

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