03
放課後、帰ろうとすると友達が告白されている現場に出くわした。
「あのさ……尚人くんにとってはわたしは大勢の中のひとりかもしれないけどさ」
ちら、と尚人の手元を見る。女どもからもらったと思われるチョコレートや贈り物があふれんばかりの手提げ袋。
うわあ……そりゃ大勢の中のひとりだわ。
「……亜希ちゃんは、大勢の中のひとりじゃなくて、ちゃんと俺にとっては亜希ちゃんだよ。特別扱いはできないけど。ごめんね」
けっこう真面目にいいこと言ってる。
「……わたし、名前紗代なんだよね」
「……あれっ」
「ざっけんなこの馬鹿尚人!」
うわあ。
「うわあ」
となりで頼子がまったく同じ感想を述べる。
そして、腹にパンチをかまされてしゃがみこんでいる尚人に近づいた。
「よう、モテる男はつらいな」
「笑いながら言われても……」
「名前間違えるからだろ」
まあでも、断らずにチョコを全部受け取ってるのは褒めてやってもいいか、と言えば、いやそれは違うと返ってきた。
「何が?」
「手作りは絶対受け取らないことにしてるの」
「なんで」
「去年もらったチョコをなんとなく割ったら、ミスとは言い難い量の髪の毛が入ってた」
「…………」
「あ、それ好きな人と両想いになれるおまじないってのでいっとき噂になったやつだ……」
頼子が呟く。
「あと、血液を入れると両想いになれるとかも……」
「女こええ……」
「あゆむも気をつけなね……」
去っていった尚人の背中を見ながら、俺はぼそっと呟いた。
「お前さすがにやってないよな」
「ちょっとあゆむわたしのこと信頼してないの!?」
「いや……」
「だいたいもう両想いなんだからおまじない必要ないじゃん!」
「そうなんだけど……」
女って怖い。
頼子以外から不用意に食い物をもらわないようにしようと、俺は決めたのだった。
20130212
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