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そういうわけじゃないけど、一応仲直りしたし、あゆむにちゃんと愛されてる証明がほしい。
あゆむの愛情表現の中で、一番手っ取り早くて正しくできる方法がそれであることも知っている。
「……わたしとは、したくないの?」
「……」
「え?」
「ゴムがねぇっつってんの」
「……あ」
「あほかお前ほんと。自分で自分の身守んの忘れてどうすんだよ」
「……あゆむって、意外とそゆとこちゃんとしてるよね」
「意外とって何だよ、俺めちゃくちゃちゃんとしてんじゃねえか」
「……」
「……なんだよ」
「ほんと、意外とちゃんとしてるのね」
軽く言い争いをしているところに、凛と響いた声。振り返ると、保健室の入り口のところに寄りかかり、白衣のポケットに片手を突っ込んでこちらを見る保健医の姿が。
ポケットに入っていない手には、見覚えのありすぎる正方形の袋。
「旭さん、安心して、花田くんにはた〜っぷりお灸据えておくから」
「せんせー何でそんなモン持ってんの」
「あら、女のたしなみよ。自分の身は自分で守らなきゃいけないんでしょ?」
「いや、だからさ」
「ただのやんちゃっ子だと思ってたら、ちゃんとそういうこと考えてるなんて、先生嬉しい!」
「……」
ローヒールで、しかも床はリノリウムなのに、先生は一歩一歩歩くたびにカツンカツンと靴音を響かせるような艶かしい歩き方をする。
あきれたような表情で二の句が継げないあゆむと、ひょっとして今までのやり取りを聞かれていたのだろうかと恥ずかしくなったわたしの前で、先生は足を止めると、にっこり笑って得意げにブツをつまむ指を緩めた。
ぽとん、とあゆむの手元にそれが落ちる。
「……せんせー学校に何しに来てんだよ」
「きみは今私からこれを有難く受け取るだけでいいのよ」
「サンキュー」
「えっもらうの!?」
「ヤりてぇんじゃなかったの?」
「え」
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