04



 それから、軽くぽんぽんとわたしの頭を叩いて、すっと立ち上がった。

「先生は、これから会議があるからここを留守にするけど、ちゃんと、今先生に言ったこと、ドアの向こうの人にも言えるね?」
「え?」
「せんせーひよこ来てっかよ」

 よく通る声とともに保健室に侵入してきたのは、あゆむだった。
 じゃあねん、と語尾にハートマークをつける勢いでウィンクされ、わたしは硬直した。
 今先生に言ったこと、ドアの向こうの人にも…………無理です。
 保健医不在の札をドアにかけて、あゆむにもウィンクを一発、先生は鼻歌交じりで出て行った。

「ねえ旭さん、そんな顔する女の子、嫌いになれたら苦労しないよ」
「へっ?」

 それが、さっきの話の続きであると分かった時には、すでに先生の姿は閉められたドアの向こう、目の前に、あゆむが訝しげな表情で仁王立ちしていた。

「お前、なんで昼休み来なかったんだよ」
「……ごめん」
「てか、どしたの。すげえ顔になってっけど」
「……」
「黙ってちゃ分かんねぇだろうが」

 あゆむは、短気だ、すごく。質問の答えがすぐに手に入らないと、途端に不機嫌になる。今も。
 わたしに向かい合うようにプラスチックのローテーブルに腰掛けて、脚が重みでギッと音を立てる。
 覗き込む鋭い目つきに、思わずうつむく。目の前のあゆむの不機嫌レベルがぐんと上がったのが、肌で分かった。

「なあ。お前が来なかったせいで、俺昼飯食ってねぇんだけど」
「……ごめん」
「意味分かんねー。何がごめんなんだよ」

 はあ、といらつきの混じったため息を吐き出し、あゆむがわたしの肩を掴んだ。
 無理にでも顔を見ようと覗き込んでくるあゆむと、一瞬目が合う。

「なんで泣いてた。せんせーには言えて俺には言えねえのかよ」
「……」
「なあ」
「……」
「なあ!」

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