※弟の苦悩の燐サイド
最近雪男が触れてこない。
今までは隙あらばべたべた触ってきたのに。
別に寂しいとかそういうんじゃなくて、なんかもやもやする。
俺だって雪男が講師としての仕事とか、俺のためにわかりやすい問題を作ってくれていることはわかっているんだけれども。
今日も朝は雪男の方が早く出て行ってしまうし、夜帰宅するのが遅い日も少なくない。
だからって触れ合う時間が少なくなってしまうこととは関係はないんじゃないのか。
(最後にキスしたのいつだっけ?)
クロとじゃれあいながら机に座る雪男を盗み見る。
カツカツとペンの走る音が聞こえる所をみると、書類か課題か何かわからないが仕事をしているのは一目瞭然だ。
『燐、雪男がどうしたのか?』
「え?いや、なんでもないよ」
見ていたのがクロにバレてしまったのか尋ねられ、若干動揺してしまった。
少し顔が熱い。
本当に雪男にクロの声が分からなくてよかった。
気持ちを持ち直すために、また動揺を隠すように声のトーンを上げて言う。
「よし!クロ今度はこれで遊ぼうぜ!」
『楽しそうだな燐!』
きゃきゃとはしゃいでいると、不機嫌そうな雪男の声で遮られた。
「兄さん、煩いからもう少し静かにしてくれないかな」
その一声で部屋の温度が下がった気がした。
雪男の様子に驚いてしまったのかクロは扉の隙間から退散していく。
普段あまり怒鳴ることのないため、珍しい様子にひどくうろたえてしまった。
「ご…ごめん」
そう言うと、はぁ、と聞こえるようにため息をはかれ腹が立つ。
いくら仕事で疲れてるからって謝罪したのにその態度はないんじゃないのか。
思わず声が出そうになるのを口元を袖で覆い抑える。
ここで手を出したら負けだ。
我慢、我慢とムカムカを吐き出すように息を吐く。
俺だって少なからず悪いんだ。
それにこんな険悪なムードで一日を終わらせたくない。
きっと雪男のことだから明日になれば許してくれるのだろうけど。
ただ少しだけ触りたい。
俺より少しばかり筋肉のついたその腕で抱きしめられたい。
そう考えて、もやもやの正体は寂しかったのだという考えがぴったりと身体に馴染んだ。
少しだけでいいんだ。
なんて言い出そうか雪男の後ろ姿を見つめながら考えていると再び声がかかる。
「何なの兄さん?言いたいことがあるなら言ってよ」
突然振り向かれ、喉まで出掛かっていた言葉が引っ込み、代わりに出てきたのは意味のないことばかり。
刺さるような冷たい視線もあいまってなのか。
「え…いや、その」
「はっきりしてよ」
「…忙しいのはわかってるんだけどさ、ちょっと休憩しないか?」
「そうだよ、忙しいよ。休憩する時間なんてないんだ」
「最近ずっとそうじゃないか。そんなに無理するなよ」
「心配ありがとう。別に僕は大丈夫だよ!」
バン、と派手な音を立てながら雪男は立ち上がる。
あまりの剣幕に呆然とする。
雪男は俺のことはどうでもいいんだ。
その言葉すとんと身体に落ちてきて妙に納得してしまった。
ああ、そうか。
俺は邪魔だよな。
「そうかよ」
無造作に言葉を放る。
これ以上会話を続けていたら泣き出してしまいそうだったから。
「もういい、寝る」
言いながら布団に潜り込む。
まだ雪男の視線を感じたが避けるようにして
枕に顔を埋めた。
どうして俺はうまく気持ちを伝えられないんだろうか。
聞こえるとまずいので心の中で深いため息を吐いた。
雪男のばーか!
俺の気持ちなんて知らないで。
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110503
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甘え下手な燐がすきだ!
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