※兄の戸惑いの雪男サイド





最近兄さんに触れていない。
今まではそれほど忙しくなく隙あらばべたべた触っていたんだが。

要するにそろそろ我慢の限界だ、ということだ。

祓魔塾の時間になれば顔をあわすのだが、生徒の前で触れ合うのはいかがなものか。
そうなると部屋、ということになるのだが朝も夜もすれ違いが多く時間があまりあわない。

今日は珍しく仕事の量も少なく兄さんが寝る前には終わりそうで、きっと兄さんも寂しくしてるだろうからうんと甘やかそうと思わずにやけてしまう。

顔を真っ赤にしまがらも、抵抗はしないんだろうなぁと想像しつつ目の前の書類を進める。

もう一息で終わりそうだという所で、我慢できずちらりと兄さんを盗み見る。
クロと玩具で遊んでいるようだった。

きゃきゃとはじゃぐ様子は微笑ましいが、こちらを少しも意に介さないような振る舞いを見た所、兄さんは別に寂しくなんてないんだろう気がしてきた。

いつもどうりの兄さんだし、クロばっかに構って僕のことを好きでもなんでもないんじゃないか。

もんもんと負の感情が頭を駆け巡っていたころ、少し後ろから明るい声が聞こえた。

「よし!クロ今度はこれで遊ぼうぜ!」

にゃーと、何を言っているかわからないがクロが楽しそうに答える。

その明るい声に僕はやっぱりどうでもいいのだ、と腹が立ち気がつけば怒鳴り声を飛ばしていた。

「兄さん、煩いからもう少し静かにしてくれないかな」

ワンテンポ遅れておそるおそるといった感じの声音で兄さんが謝罪する。

「ご…ごめん」

ただ謝罪してくれているだけなのに、イライラが収まらない。
思わずため息を吐く。

今日は甘えかすつもりだったのに。

背中に兄さんの視線が向けられているのがわかる。
きっと怒っているんだろうな。
怒らせたくなんかなかったのに。

兄さんにはいつも笑っていて欲しいんだ。

それでもなかなかイライラは収まらない。。
そればかりか、頭に血が集まりぐつぐつと煮えたぎっている。

「何なの兄さん?言いたいことがあるなら言ってよ」

ただの八つ当たり。
思い通りにならなくてかんしゃくを起こす子供と一緒。

怯えている表情。
きっと今の僕の顔はひどく冷たいものなんだろう。

「え…いや、その」

「はっきりしてよ」

「忙しいのはわかってるんだけどさ、ちょっと休憩しないか?」

「忙しいよ。休憩する時間なんてないんだ」

「最近ずっとそうじゃないか!そんなに無理するなよ」

きちんと最近帰りが遅いことに気付いていてくれたようだ。
胸が少し温かくなる。
しかし勢いは止まらない。
頭では冷静に考えられるようになってきているのに、口だけが別の生き物かのようだ。

「心配ありがとう。別に僕は大丈夫だよ!」

バン、と派手な音を立てながら立ち上がる。
呆然とする兄さんを上から睨み付けつつ、頭の中ではひどい慇懃無礼な言い方だな、なんて自分に対し嘲笑する。

ああ。
思っていること言いたいことが矛盾する。
嬉しかったのに、一体どうしたら。

「そうかよ」

無造作に言葉を放ると、のそりと立ち上がり背後の自分のベットに向かう。

「もういい、寝る」

言いながら兄さんは布団に潜り込む。
顔が見えなくなり、嫌になって避けられたのだと実感する。

ぜんぶ、ぜんぶ、台無しだ。

すでに終わっている書類を見ても先ほどとは違い気分が高揚するはずもなく、無駄に何度も書類の内容を確認する。
気まずくてすぐに寝れなくなってしまっただけだ。


疲れていたとはいえどうして八つ当たりなんてしてしまったんだろうか。
聞こえるとまずいので心の中で深いため息を吐いた。


兄さんのばーか!
僕の気持ちなんて知らないで。





110503
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もんもんとしてる雪男が書きたかった。


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