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幻想を融かす術(西蔭)


幻想を消し去る魔法の続き。
西蔭がひどいです。誰も幸せじゃない話です。なんでも許せる方向けです。



一歩、一歩と野坂の部屋に向かって歩いて行く。鉛のように重い足取りは自らここをでると決めた私の意思に反していて自嘲気味な笑みがつい漏れる。ハハッと笑みと共に微かな息を吐いた唇には自然と手が寄っていて人差し指が唇に触れた。触れた手の感触によって蘇ったのはさっき一方的に触れた西蔭の唇で触れた指の生暖かさがその名残を一層強く思い出させていた。今日が最後だとあんなことしておいてまだ側に居たいと思ってしまう自分が愚かで浅ましくもあり情けない。でもだからこそ、これ以上情けない姿を晒さないためにも私はここをでなければ、彼から離れねばと自信を奮い立たせ一歩また踏み出した。



「みょうじ。」

踏み出したときだった、背後から西蔭の声が聞こえたのは。幻聴だろうかと思ったけれどぐっと腕を引かれた拍子で振り返るとそこには確かに西蔭が居て西蔭は私の腕をそのまま引いてずんずんと来た道を戻って行く。

「ちょっと離してくれる。」

足取りの重さに耐えながら必死で歩いた一歩一歩を大股で戻って行く西蔭に私は訴えた。しかし西蔭は私の言葉の一切を無視して私が覚悟を決めて歩いた道を大きな足取りで踏み躙って行く。どうにかしようと腕を振ったりもう片方の手で解こうと藻掻いてみたものぼチームの中にどころか中学サッカー界の中でも類い稀な肉体を持った彼に一介のマネージャーが叶うはずなく、半ば引き摺られるような形で着いた先はさっき私がすべてを吐露した彼の部屋だった。ガチャと扉を開けると腕を強く引かれ背中を強い力で押されよろついた体は部屋へ足を踏み入れてしまい背後で扉が閉まる音がした。西蔭が何をしたいのか皆目見当がつかなかったけれどガチャリと部屋に響いた施錠の音が心の中で不吉な渦を巻き反射的に振り返った矢先、西蔭は私の両手首を掴み片手で壁に押し付けた。そして向かい合う間もなく唇に生暖かいものを乱暴に押し当てられる。身体が覚えているその感触に数センチにも満たない距離にある西蔭の深い灰色の双眼。その2つの要素が何を指しているのか理解するのにそう時間はかからなくて理解と同時にぬるっとしたそれに唇をこじ開けられそれは私の口内に入り込んだ。

「んっ....」

口の中をぐちゃぐちゃに掻き乱すそれは私の舌を捉えると強引に絡まってきてくぐもった声がつい漏れた。分泌される唾液同士が舌が絡むたびに交わる音が耳に届き羞恥から顔が熱を帯びた次の瞬間西蔭の手と思わしきものがジャージと肌着の中に忍び込んできて徐々にその手は上へ上へと上がってきた。

「っ...!」

それ以上は駄目だとやっと回り出した頭が鳴らした警鐘に私は口内を掻きまわすそれに歯を立てた。すると西蔭が顔を歪ませて私から距離を取った。口内に残る鉄の味の正体は口元を抑えている西蔭を見ると明らかでその味は私を正気にするには十分だった。私は息を整えて口の端に垂れた唾液をジャージの袖で拭き取る。

「...どういうことなの。」

なんでこんなことをするのか、出て行くと決めた私に彼は一体何をしようとしているのか、西蔭を見つめる瞳に力を込めて私は尋ねた。口元を抑えている西蔭だけれど瞳は変わらず無機質だ。暫くの沈黙の後、遂に西蔭の手が口元から手が離れたかと思えば「俺は...」と西蔭は口を開いた。その先に続く言葉を待っていた矢先、再び腕を力一杯引かれて身体を投げ出される。私の身体は西蔭のベッドに沈み起き上がる間も無く両手をさっきのように掴まれベッドに押し付けれてた。


「みょうじが求めているものを与えるだけだ。」


鋭い双眼で私を射抜いた西蔭は親指の腹で私の唇を撫でながら言った。求めているなんて私はこんなのを望んでいたわけではないとこの先起こるであろう行為を悟って抵抗しようとしたけれど大きな手による拘束、そして頭を上げた瞬間口の中に侵入してきた指によってそれは阻まれた。唇にあった親指に舌を押し込まれ言葉を紡ぐ術を無くした口から言葉にならない呻き声に似たものが溢れる。

「うぅ...ぐ......」

息苦しさから細まった視界の先に映る無機質な瞳はただ無感情に私を見下ろしていて心臓が凍りつくような冷たさを帯びた。西蔭は、彼は何も分かっていない。私が欲しいのはそんな行為じゃない。.....ただ、ほんの少しでいいから、西蔭の心全てなんて望まないからその瞳に少しでも私を映してくれれば、私を意識してくれればよかった、それだけなのに。

涙が浮かんで視界が揺れて世界が、西蔭の姿が原型を失う。涙を拭う術は無いけれど寧ろこんな世界なんてずっと滲んだままでいいかもしれない。現実をドロドロと溶かした幻想という世界にジャージのジッパーが下される音が響く。動きを封じられていた腕は知らぬ間に自由になっていたけれど抵抗したところで無意味なことは明らかで力もうまく入らない。


(にしかげ....)

涙が一雫瞳から零れ落ちてこめかみを伝う。刹那覗いた現実に映る彼の姿はどこまでもいつもの彼だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「....まさかみょうじが....」

彼女が去った部屋の中で俺は一人呟いた。独り言はしない質だがあまりの衝撃につい言葉が口から零れていた。口に確かに触れた微かな熱をなぞりながら最後に残した彼女の光に揺れた瞳を思い出す。


ーーーーー私は竹見と違ってずっと近くに居たのだもの。それは今日まで気付かなかったわけだわ。

ーーーーー私だってまさか脱走者によって気付かされるなんて思いもしなかったわ。


光を灯した瞳と彼女の残した言葉を繋ぎ合わせながら答えを導き出す作業を試みるがそんな回りくどいことをするまでもなく彼女の言動が何を指しているかは火を見るより明らかだった。

彼女は、みょうじは俺に慕情を抱いている。


「....くだらないな。」

なぜ彼女ほどの人間が、野坂さんから認められるほどの人間がなぜ俺なんかにそんな無駄な感情を抱いたのか到底理解できずふつふつと湧き上がる感情は苛立ち一色だった。そんな彼女に対する苛立ちの中浮かんだのは自分の生き方を、そして世界全てを変えてくれた、生涯連れ添うと心に決めた野坂さんの姿だった。彼女は、みょうじは本当に優秀な人間だ。俺よりも後に野坂さんと知り合った彼女だったけれど野坂さんは優秀な彼女に信頼を寄せ、時にはマネージャーの枠を越えたことまで任せることがあった。そんな彼女が去る、しかも俺へ感情を抱いたせいで。

「野坂さん...」

慕い側にいると誓った野坂さんの姿を浮かべながらグッと拳を握る。何としてでも、野坂さんに迷惑がかからないように彼女を止めなくてはならない。そう考えた瞬間身体が自然と動き俺は部屋を飛び出した。野坂さんに掛け合ってくると言った彼女が向かう先なんて考えるまでもなく現に向かった先に小さな背中がゆっくりと、だがしっかりとした足取りで野坂さんの部屋に向かっていた。


「みょうじ。」

そんな彼女の背後に迫って俺は彼女の名前を呼びそして腕を強く引いた。引いた勢いで振り返った彼女の顔なんて見ずに自室へと歩いて行く。

「ちょっと離してくれる。」

彼女は淡々とした口ぶりでいった。感情が現れているのはあくまで瞳だけかと思いながらそれならきっとまだ修繕の余地はあると腕から逃れようとする非力な力を無視して部屋へ進み扉を開け彼女を部屋へと押し入れる。そして扉をしめてガチャリと鍵を閉める。体制を戻した彼女は施錠の音に反応して振り返ったがすぐさま彼女の両腕を片手で掴み壁へと押し付ける。腕とともに身体も壁に張り付いたみょうじは状況を理解できていない様子だが構わず俺は彼女の唇に自身のそれを押し当てた。近すぎる距離で彼女の目が大きく見開かれる。そんな状況をうまく理解できていないらしいみょうじの口内に舌を潜らせて奥に逃げる舌を捕らえて自ら絡めて行く。

「んっ...」

くぐもったみょうじの声、そして絡み合う音を耳が拾い少し胸が熱くなる。おそらく生理現象だろうと片付けみょうじのジャージの中に手を忍ばせ肌着を捲り地肌に触れ手を上へ上へと這わせて行く。


「っ...!」

手が女の一等柔い肌に到達しかけたその時だった、舌に劈くような痛みが走る。すぐさまみょうじの唇から離れ手で口元を抑えると口の中に鉄の味がじわりと広がり噛まれたと理解するのに時間は要らなかった。

「...どういうことなの。」

じくじくとした痛みに耐えていると目の前のみょうじが息を荒くさせながら言った。目に力を込め俺を睨みつける目は色々な感情を孕んでいるように見え身体が僅かに震えた。


(.....何故だ、何故なんだみょうじ。)


なんでお前がそんな風になってしまったんだ。沸々とこみ上げてくるのはやはり苛立ちと怒りでその怒りは原因になっている自分にも向いる。
......だからこそ、一層使命感を覚えているのも確かだった。みょうじをここから出さないように、野坂さんが困らないようにみょうじの、彼女のくだらない幻想を自らが砕くほか術はない。恋愛などという煩わしい感情を傷として上書きすればみょうじの俺への想いは砕けてきっと元の無感情な瞳を湛えた彼女に戻る。

「俺は...」

みょうじの腕を強く引いてその身体をベッドへと投げる。そして起き上がる前に腕を壁に押し当てた時のように拘束してベッドに沈むみょうじを見下ろし彼女の唇を指でなぞりながら口を開いた。


「みょうじが求めているものを与えるだけだ。」

目の前の彼女がこれから致そうとしている行為を求めていないことなんて百も承知で俺は言った。言葉を聞いた途端に力を込めれば優に折れてしまいそうな細い手首が動き唇が言葉を紡ごうと小さく開く。だが抵抗しようが声をあげようが全て無意味なのだと唇に置いた親指をみょうじの小さな口の中に滑り込ませ舌に指を押し当てた。


「うぅ...ぐ......」

指を奥に押し込めば押し込むほど苦しそうな呻き声がみょうじの口から漏れ次第に瞳に涙が滲んだ。照明の光を浴びた涙がゆらゆらと忌々しく光り俺はその光から目を逸らし彼女の衣服へと手を伸ばした。