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過去に戻ります。
約450年前くらい?の戦国。

ギンと乱菊の出会いの話。







晴れた秋の日だった。厭味な程に空は蒼く、未だ夏の名残を孕んだ風が吹いている。世は戦乱。覇権を争った武士どもが夢の後、とでも言いたげな草原に脚を踏み入れた。昨日の合戦の跡が明白に残っている。どす黒い血で泥濘の様に為っている地面が下駄の歯を汚した。折れた矢と刃を避けて、器用に骸の上を歩いて渡る。死者への敬意等、知った事ではない。むしろ此方の方が迷惑していた。

(よくもまあ、僕ん山の近くで戦してくれたもんや)

暫く自らの縄張りである山を留守にしていた、丁度その帰山に合わせた様に人間どもの合戦が始まっていた。一日が立った今でも血の臭いが漂ってくるのが、狐の物ノ怪である己には酷く堪え難い。血煙の臭いは嫌いでは無いが、こうも四六時中嗅ぐのは御免被りたい。黒い烏が、遠くの骸に舞い降りたのが見えた。いずれ烏や野犬どもが屍肉を漁りに来てもとの草原へと戻るのだろう。がしかし、それを待てる程己の気は長くは無い。水の力で一息に押し流して終おうか、と右腕を緩慢に持ち上げたその時、花の香が鼻孔を擽った。大凡、血生臭い合戦跡には相応しく無い菊の仄かな香。すん、と鼻を鳴らすとどうやら数歩先に匂いの元があるようだ。僅かに興味を引かれて、骸を踏み付け移動する。足先で、鎧を退かすとその下には幼い女の子がいた。金色の髪の毛は血水と泥に塗れ、着ていた粗末な着物も同じく無惨な状況だった。



(血と泥と菊)




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