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今青と紫氷
本編の裏話的な
時間的には火神達が死体を発見してた頃





「なあ、紫原。ケーサツがお前らをマークしてるぜ?」

図々しくも部屋にいきなり侵入して来た女はそう言って笑った。恰もここが自分の部屋であるかの様に、彼女は勧めもしていないソファに座った。隣に立っていた室ちんが、隠し持っていた銃を素早く彼女に突き付ける。それを察してか、彼女の背後の狐顔が銃を抜いて俺に向けた。

「銃おろしていいよ、室ちん…峰ちんは知り合いだから」
「アツシ…」
「いいから、」

視線を向けると室ちんは渋々という体で銃をおろした。狐顔もそれを確認して銃をしまう。

「で、峰ちんがさっきいってた事って本当?」
「嘘なんてつくかよ、何の得にもならねぇ。陽泉がこの船で誰かと取引する、ってタレコミがあったらしいぜ、ICPOが幾人かこの船に乗ってる」
「あらら…どこから漏れたんだろー、室ちん、後で突き止めておいて」

峰ちんの言っている事は、半分事実だった。上院議員のエドワードと取引するために来た、というのが建前。本音は、違う。

「でも、エドワードは隣の部屋で既に死体だし、ディアナはさっき俺が海に投げちゃった」

そう告げると峰ちんは珍しく、目を瞬かせた。そして、かは、と笑う。

「ICPOもあてになんねーな。なんだ、エドワードとやらはヘマでもやらかしたか」
「うん、ちょっとねー。まあ、もう死んだんだから良いんだけどさー」

ああ今思い出してもムカツク。エドワードは陽泉との取引の傍ら陽泉の敵対組織に情報を流していたのだ。それを目敏く見つけ出した上層部が紫原と氷室に、エドワードを取引だと誘い出して殺せと命じた。警察にバレて大事になっても面倒だからと、手口でバレない様妻ディアナを脅してエドワードを殺させて、さらにディアナを殺した。罪を被ってもらうため、あくまで行方不明にしたかったが、ここは海の上だ。死体は海に放り投げてしまえばそれで済む。

「残念。折角テメー等に恩売ってやろーと思ったのによ」

対して残念そうでもない顔で峰ちんは言う。けれど幾ら赤ちんの知り合いで自分と短くはない付き合いとはいえ、マフィアの恩を売られるというのはいただけない。売り付けるのならいいのだけれども。



「ねえ、アツシ。あの麻薬王と知り合いだったのかい?」

峰ちん達が帰ったあと、緊張していたのかほう、と息を深くはいて室ちんが言った。無理もない、峰ちんは女で、いくらこの場で捻り潰す事が叶ったとしても後々の影響を考えると下手なことは出来ない。なんたって彼女は裏社会きってのビッグネームだ。

「んー付き合いは長いけど、直接に知り合った訳じゃないよ。赤ちんの知り合い」

赤ちんは俺が裏社会で仕事する様になった時からの知り合いだ。彼が表向きのカジノ王でないときー例えばマフィアとかとの取引の時ーに付き従うボディーガードをしていた事がある。今は正式に陽泉の一員となったのでそんな事をする機会は二度とないが、峰ちんと知り合ったのもその時だった。皆が恐れる威圧感を出していた赤ちんにあろうことか、タメ口で話し横柄な態度を崩しもしなかった。無礼だと思ったが、赤ちんはそれを咎めるどころか、どこか気のおけない風だった。それから赤ちんのもとを訪れる峰ちんと段々話す様になって、最終的にはタメ口で話す様な、悪友に近いような、関係に落ち着いた。今にして思えば赤ちんと峰ちんの関係も、悪友と呼べるものだったのかも知れない。


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