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 独占し合いたいモブと彼女



照りつける太陽。
輝く水面。
吹き抜ける風は生暖かく潮の香りを連れて、真夏を知らしめる。

そんな中少しでも日光を遮りながら涼むべく、私は目深にかぶったパーカーが風でめくれないように押さえた。


「キレイな海だね」


霊幻さんの監督の下、連れて来てもらった穏やかな海には私たち以外の客はいない。
本当にプライベートビーチなんか持ってる人がこの日本にいるんだなあ、と浅瀬に足をつけたまま煌めく沖を眺めていると茂夫君から声を掛けられる。
「そうだね」とそれに同意して、「霊幻さんに感謝だね」と続けると茂夫君も頷いた。


「テル君たちの方賑わってるね」
「スイカ割りしてて…師匠たちはビーチバレーしてるよ、行かない?」
「え〜どっちに行こうかなぁ」


どっちも苦手だけど、どっちも皆となら楽しそう。

でも、折角茂夫君と2人きりになれたのだから、このまま2人でいたい気持ちが私の足をこの浅瀬から離さない。
悩むような口振りをしていながら、その場にしゃがみ込んだ私に合わせて茂夫君もしゃがんだ。
チラリと彼の視線が私の足元にいってから、水中を泳ぐように揺れて名前を呼ばれる。


「此処で、何してたの?」
「……」


波が私たちの脹脛を濡らしていく。
そこに舞い上がる砂の中から、時折小魚がふよふよと鰭を精一杯動かしてまた波間に攫われていった。

引いては打つ水の流れがただ心地良くて、しばらくその心地を満喫していたかっただけ。
あわよくば、と。淡い願いを抱いて。


「茂夫君が、こっち来てくれないかなって思って」


皆の中にいる茂夫君も好き。それを見ているのも。
けれど時々、少しだけ、独り占めしたくもなって。

そんな私の小さな願い事を、意図せず叶えた茂夫君は悪戯に笑う私を見て頬を染めた。
優しい彼が、一人ぼっちになる私を放っておく訳がないのに。
それを知ってて誘うような真似をしてみたくなった私を、叱るでもなく責めるでもなく、茂夫君は「なんで…?」と朱の差した目尻で尋ねる。


「だって水着、一番に見て欲しかったから」


目を瞠る茂夫君の前で、パーカーのファスナーを下ろしていく。
ちょっとだけ大人っぽく見えるクロスデザインのビキニが日の下に晒される。
狙いすぎないように白のトップにネイビーのボトムの清楚な色合わせにしたけど、ボトムのサイドはバストの下と同じ様にクロスデザインになっていて、素肌がチラ見えするのが他の水着と違っていいなと思った。

くるりとその場で回って、「どうかな?」と茂夫君を見つめると彼は一層赤くなった喉元を隠すように擦りながら「か、っ…に、似合ってる、よ……凄く」と褒めてくれる。
その言葉に目を細めて満足していると、茂夫君の手が宙を彷徨ってから何かを掴むように空中で握られた。


「? 茂夫君?」
「その格好…皆にも見せるの…?」
「んー…」


首を傾げていると真剣な目の茂夫君が声を潜めて尋ねてくる。
一番の目的は茂夫君に見せることで、もうそれは果たされたしどうしようかなと海に視線を移した。
私が脱いだパーカーが波に揺られながらも光を纏って不自然に同じ場所で揺蕩っているのが見えて、茂夫君の力で流されないようにしてくれてるんだとさっきの手の動きに気が付く。


「折角の海だし、その為の水着だけど」
「そう…だよね」
「……ねえねえ」


1歩、2歩と近付いて、茂夫君にぴったりと身を寄せるように隣りにしゃがみ込んだ。


「ホントに似合ってるかな」
「さっきも言った…」
「もう1回聞きたい。茂夫君に褒めて貰えるの嬉しいから」
「……もう一度、褒めたら」


言葉を呑み込むように茂夫君の喉が上下したのが見えた。
私の水着姿をその視線が下から上へとなぞる様に伝って、最後に私の目とかち合う。


「皆には、見せないでいてくれる…?」
「…どうして?」
「見せたくない。皆に」


意地悪なことを聞いている自覚があったのに、その返答に澱みなく即答されて今度は私が目を瞠る番だった。


「特にエクボには…あと師匠も……ううん、やっぱり誰でも嫌だ」


ハッキリと拒否の言葉を口にする茂夫君が珍しくてそのまま呆けていると、いつの間に絞られたのだろうか少しだけ水気を含んだ私のパーカーが肩に掛けられる。


「僕だけにして」
「……茂夫君て、独占欲あったんだね」
「…嫌、だった……?」


初めて面と向かって所有欲を向けられた、と思うと私の胸が満ちた気分になる。
意外そうに呟いた私に茂夫君が萎縮しそうになるのを、彼を抱き締めて首を横に振り「ううん」と伝えた。


「もっと茂夫君だけの私になりたい」


潮風でぺたつく彼の胸に頬寄せると、聞こえてくる早い鼓動。
こうしてくっ付いていると、私もその体温に溶け合えるような気がした。





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