dust | ナノ


 リップのお裾分けver.竹中



--次は移動か。


竹中は授業終わりのチャイムの後、壁に張り出されている時間割と自分の記憶を示し合わせ次の授業の準備をする。
「行こうぜ」とクラスメイトに声を掛けられて「おー」と気怠げに返事をすると教科書類を手に持ち教室を後にした。


「今日実験何するって?」
「アレじゃん?花崗岩のなんたらってやつ」
「なんたらってなんだよ」
「わかんねぇけど……ん?」


廊下を歩いている途中で、数歩前を歩いている女子3人組が視界に入る。
内1人は1年の頃から付き合っている恋人で、つい竹中はその3人組の様子を眺めた。

3人とも竹中と同じクラスで、必然彼女らも理科室へと向かっている最中なのだが、その彼女が後ろから見ても焦っているのが伝わる程わたわたとした動作で何かを仲間2人に尋ねている。
しかし彼女の問い掛けに2人とも首を横に振って、一層その背中に悲壮感が漂い始めた。


--アイツあんな焦ってどうしたんだ?忘れモンか?


「トイレいってくれば?ハンカチでいいならあるけど…」
「で、でも此処トイレ遠いし、何か流石にハンカチは大丈夫だよ……あ!」


申し訳なさそうに申し出を断った彼女が後ろを歩いていた竹中たちに気がつく。
チラと竹中の隣にいる男子生徒を気にする素振りを見せながら、「ねぇ、竹中君たちティッシュ持ってない?」と足を止めて尋ねてくる。


「ティッシュ?…悪い、持ってない」
「俺も。そんな育ちよくねー」
「ウチらまで育ち悪くなるからやめてその言い方ぁ」


ケラケラと笑いながら二組は合流して理科室へと向かう。
その一行の中で、少し遅い足取りでそれについていく彼女に竹中が歩幅を合わせて隣に立つ。


「…何でティッシュ?」
「あ、うんとね…口、拭きたくて」
「口?」


顔は前方に向けたまま竹中が彼女の様子を伺う。
一見して何も汚れてないように見えるし、そもそもまだ昼前だ。
「何か食ったとか?」と内心"それはないだろうけど"と思いながら聞いてみると、案の定彼女は首を横に振る。


「今日、新しいリップ卸したんだけど。ちょっと…保湿力高すぎっていうか…皮膚呼吸できない感じで気になっちゃって」
「あー…そういうこと」


ノロノロとした足取りで歩いている内に、同じく理科室に向かうクラスメイトの何組かが竹中たちを追い抜いていく。
最初は一緒に出ていたそれぞれの友人たちも、さっさと理科室に入っていってしまった。

竹中が廊下を振り返ると、廊下で過ごす人数も疎らになって来ている。
その様子から次の授業が始まるまであと1、2分程かとあたりをつけた。
もう彼女がトイレに寄るような時間は残されていない。


「……ちょっとこっち」


竹中たちも理科室を目前にした所で、理科準備室横の階段の脇に移動して彼女を手招く。
竹中に呼ばれたことで一瞬辺りを見回して、誰の視線も此方に向いてないのを確かめてから彼女が小声で「桃蔵君、どうしたの?」と竹中が示す通り傍らにやって来る。


「こっち向いて」
「? え、…っ」


竹中の声に首を傾げながら素直に見上げて来る彼女を自分の体で隠すように壁に手をついて、唇を重ねた。
触れた瞬間彼女の肩がピクリと反応したが、それきり抵抗もなく大人しく目を瞑って受け入れている。
しっとりと柔らかい唇を擦り合わせるように数度押し付け合ってから、離れる。
紅潮した彼女が「び、…っくり、した」と弱々しく零す。
「俺で見えてないから、大丈夫」と竹中は宥めながら元いた廊下の方へ2人並んで戻って行く。


「これで息できるようになった?」


彼女から分けて貰った湿度を確かめるように唇に触れながら竹中が彼女を窺う。
普段学校ではこんな態度見せないのに、と未だ熱を持った頬を両手で押さえながら彼女は「逆に止まりそう…」とか細く訴えた。





prev / next

[ back ]































































     
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -