ショウと文化祭巡り
「文化祭って初めてだなぁ」
そう言うと隣でショウ君が「そうだな。面白れーじゃん賑やかで」と笑う。
色んな出店が出ていて、色んな服装の人たちが行き交っている。
私がその内のチョコバナナに目を輝かせて立ち寄ろうとすると、ショウ君の腕に遮られた。
「コラコラ。律んとこ行く前に腹埋めんなよ」
「えぇー食べたい…。…後でならイイ?」
「おー」
それなら、と私は踵を返して外れかかった通路に戻る。
貰った案内にある地図を見ても、律君の教室までの経路がいまいちわからず私たちは先ほどからフラついてばかり。
こういう人混みの中での私のミッションはショウ君とはぐれないことであって、ナビゲートは専らショウ君の役目だ。
地図と現在地を示し合わせているショウ君を横目に、私は他人の学校って自分の所とは全然違う空気を感じるんだなぁ、と校舎を見上げる。
あっちの建物は部室棟とかかなぁ。
あそこの部屋、暗幕垂れてる。何やってるんだろう、気になるなぁ。
そう思いながらぐるりと文化祭特有の景色とやらを眺める。
痺れを切らしたショウ君は「1年の教室って何処から上がるんだ?」と腕章をつけた生徒を見つけて声を掛けた。
その声が思ってたよりも遠くに聞こえて、私がよそ見している間に離れてしまったんだとハッとして視線を巡らせる。
「あ。すみませーん、通り、通りますっ!」
ショウ君との間を人の波で隔てられてしまった。
私もショウ君も高身長ではない。
こんな人混みではぐれたら迷子センター行きだ。
マズイこのままでは…ショウ君にこっぴどく怒られてしまう…!!
なんとか声を上げてショウ君が立っていたであろう方向に向かって人を掻き分ける。
怪訝な顔をする通行人たちに「すみません」と頭だけ下げながら進むと、人の隙間を分けていた私の手首が捕まれて強めに引き込まれた。
「うわっ!」
バランスを崩して倒れそうになるところに、ふわりとした浮遊感。
「よそ見すんなって、はぐれるだろー?」
私の手首と背中を支えてくれたショウ君が呆れたように笑いながら「ホラ髪ぐしゃぐしゃだぞ」と髪を軽く整えてくれる。
良かった、怒ってない。はぐれてない。
安心すると同時に申し訳なくなって、「ごめん」と俯く。
またはぐれないように、とおそるおそるショウ君の服の裾を掴んだ。
「離さないようにします…」
「……」
「…?」
私の所作にショウ君が数回瞬きをしたまま静止している。
服が伸びないように力加減してるけど、ダメだったろうかと手を離すと「フッ」とショウ君が苦笑した。
「離してんじゃん」
「だって、ショウ君固まってたから、ダメなのかと思って…え?」
「ダメじゃねーけどよ」
「するならこっち」と手を掬われる。
指同士が交差し合って、俗に言う”恋人繋ぎ”というものじゃと私が理解するよりも先にショウ君はそのまま歩き出してしまう。
「俺は離さねーから安心しなよ」
そうニカッと笑うものだから胸がドキドキして。
…どうしよう、何も喉を通らないかもしれない。
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