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 芹沢とひなまつり


コトリ。
コップを置いてみては何か違うなと首を傾げた。
もっと可愛さを引き出せるはずだと机の前で格闘していると、扉が開いた。


「おはようございます。…何してるの?」
「あ、芹沢さん。おはようございます。家から桃の花持ってきたんです」


3月ですし、といえば桃の節句ですか、と返ってくる。
それに頷いてしばらくこの机上の主役となる花を見た。


「桃って魔除の力があるって聞いて、ちょっと貰ってきちゃいました。でも思うように生けられなくて」
「そうなんだ。…このままでも十分綺麗だと思うけど」
「…いえ、こんなもんじゃないんです。この子はもっと輝けます!」


ああでもない、こうでもないと言いながら少し動かしては離れてみたり。
枝物は難しいなとまた頭を捻る。


「……コップの形が悪いのかな…。芹沢さん、このコップ形変えられませんか?」
「え?うーん……割って別の形にするならできるけど、歪になっちゃうよ」
「ちょっとやってみて貰えませんか?イメージ描きます」


そう言って適当な紙に絵を描く。
コップの底面はそのままで、縁に向かって細くなっていって欲しいと希望を言えば、芹沢さんは「近づけはするけど、このコップの形の状態から作るから完全に絵の通りにはできないよ」と難色を示した。


「それに破片を繋ぎ合わせただけじゃあ、縁が鋭いままだから怪我しちゃうかもしれない。辞めた方がいいよ」
「そうですか…すみません、無茶言って」
「…あ。ちょっと待って」


私の力量が足りないばかりに、ごめんね花たち…。と心の中で謝っていると折角立派な花なんだし、と言われて桃の枝たちが宙に浮いた。
それらがゆっくりとしなって絡まり合う。
一本一本の端がしっかり結ばれれば…


「わあ…すごい!桃の枝のリースですね、とっても可愛い!芹沢さんありがとうございます!」
「良かった」


発想の逆転だ!と出来上がった可愛らしいピンクのリースを抱いて喜び回る私を見て芹沢さんは照れるように笑った。
その顔が可愛くてセンスの塊だとか芹沢さんは可愛さを引き出す天才だとか褒めちぎっていたらどんどん芹沢さんの顔が赤くなっていく。
そろそろやめよう、と「本当に嬉しいです」と改めてお礼を言うと


「…花に向き合ってる姿が綺麗だったから、そのお礼」




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