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「……ムカつく」

「は?」


さも当然とばかりに服の中へ手を滑り込ませてきた玲央の動きが止まった。不機嫌そうに眉間に寄るしわをつい見つめてしまえば、玲央が俺を抱き上げる。


「香水と煙草くせぇ」

「ちょっ、玲央、シャワー浴びて来るから、分かったから離して」


カシストで働いていればどうしても香水や煙草、お酒の匂いが移ってしまうのは仕方がないのだけれど、俺を抱いてからの玲央はそれを特に嫌った。
今回も同じように、俺だけの匂いでないことについに痺れを切らした玲央に担がれて、広い脱衣所に運ばれる。そもそもこの歳になって俵抱きされる俺って一体。

潔く俺を下ろした玲央は、問答無用で服を剥ぎ取った。ついでに自分も服を脱いで、どうやら一緒に入るつもりらしい。強引に連れられた浴室で、すぐさま温かいシャワーを向けられる。
パシャパシャとお湯が床に跳ねる中で、頭からお湯を浴びせられる俺は目を伏せたまま、伸びてきた手にされるがままだ。

玲央の潔癖症は、実は直っていない。今も外食は好まないし、誰かの手作りなど絶対手をつけない。そのくせ俺が作るご飯は食べるし、以前まで噛みつくだけだった首筋もしきりに舐めるようになった。いつだったか、散々イかされてぐったりしている俺の汗を舐めた玲央が、文字通り獣の如く襲いかかってきたこともあった。

そんな玲央が執拗に愛でるのが、やはり背中だった。
まるで自分のものであると後ろから散々揺さぶりながら、よく背中へ欲望をかけては塗り込むこの男の、そんな小さな独占欲がたまらないと言えば、喜ばせるだけなんだろうなぁ。

シャワーから上がり、髪も濡らしたままの状態で俺にすり寄る玲央はひどくご満悦だ。ベッドに寝転び、自分の腕の中に閉じ込めた俺の首筋に顔を埋め、求めるように匂いを嗅いでは牙を突き立て、じわり痛むそこを舐め上げる。


「でも好きなんだよなぁ」

「あぁ?」

「んーん、独り言。今も変わらず横暴なお兄ちゃんが、大好きだなぁって」

「知ってる」


顔を上げた玲央が俺の唇をついばむ。

誰もが見惚れる気高い美しさを持ちながら、その口から語る言葉は心地よく、ときにひどく一方的なことを言い出したって目が離せない。その風格たるや絶対の王者。従わずにはいられない。
そんな野獣のような荒々しくも麗しい獣がゆるりと笑みを浮かべるのは、あぁ。


「あはは、うん。俺も知ってる……悔しいけど、すっげぇ好き」

「当たり前だろ、馬鹿トラ」


なんて、言い放つ玲央の言葉に笑んだ俺の首筋に、獣は優しく牙を突き立てた。泣きたくなるほど甘い痛みに、俺はいるかも分からない神様に一人、ただどうしようもなく自慢したくなるのだ。

今もなお、溢れ続けるこの温かさを飲み込んで。
俺は玲央の頬を撫で、こちらへ引き寄せた。互いの瞳に映る獣の姿に微笑みあってしまえば、もうそこには幸せしかなくて。

だから、俺は世界で一番愛おしい兄の唇に喰らいついた。





-END-




 


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