「小虎」
「あ、ただい、んぅっ!?」
いつのまにやら俺の背後に立っていた玲央に振り返った瞬間、塞がれる唇。ついでに抱かれた腰に回る手が、情欲に俺の背中をなぞった。ぞくぞくと背筋を襲う感覚に舌を絡めると、ねっとりと甚振る真っ赤な舌が俺の思考を駄目にする。ひっそりと離れた唇を繋ぐ唾液の糸を舐めとった獣は、隠そうともしない肉欲で揺らぐ瞳に俺を映した。
「おかえり」
「うん……ただいま、仕事してたんだ?」
「まぁな」
俺の首元に顔を埋め、思いっきり匂いを嗅いだ玲央がそのまま俺を持ち上げ、近くのソファーに押し倒してきた。柔らかさに跳ねる体が隙間なく密着すれば、シャワーを浴びたであろう石けんの香りに俺まで興奮してしまう。
俺の首筋を舐めはじめた玲央が、器用にも長いチェーンを舌で引き出しながら、その先に繋がる指輪を咥えて笑った。俺は迷うことなくチェーンを外し、そのまま手を差し出して微笑めば、恭しい仕草で嵌めた玲央は満足げに口付けを施す。
「んっ……何回やってもなんか、慣れないね」
「なんどでも確認できて良いだろ」
「玲央のものだって?」
「あぁ」
あのクリスマスイブの日、本当は指輪が用意できてからちゃんと言うつもりだった玲央は、司さんのせいでイブに告白なんてくせぇことさせられた、などとぼやいてもいたが、玲央がオーダーメイドで作ってくれた指輪は見た目こそシンプルだが、形や装飾など細かなところまでこだわった美しいものだった。料理ばかりの俺の手にはあまり似合っていないと思うのだが、こうして二人だけになると指輪を嵌め、なんどでも味わう形式に照れてしまうのも本当で。
「お前は馬鹿だから、こうしてなんどだって教えてやんねぇと忘れんだろ」
「忘れないけどなぁ。玲央が俺のこと、あんまり放っておかなきゃね」
「へぇ?」
いくども叩き込まれるような、玲央のものであるという儀式めいたこの状況を楽しむのはお互い様だ。
組み敷かれたまま微笑む俺に、玲央が少し荒っぽく喰らいつく。指輪の嵌められた左手に指が絡まり、無意識に握れば舌先をかじられてしまった。
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