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「れお……んぅっ、」


どうしてそんな顔をするのか尋ねようと開いた唇に、ちゅっ、と可愛い音を立てて口付けた玲央がゆっくりと顔を上げる。その眉間には、まだしわが寄ったままだ。


「お前はいつもそうだよな」

「そうって……?」

「遠慮がち」

「……遠慮、ていうか」


結婚の話をされていたときから、実はずっと思っていた。
俺は玲央を信じているし、裏切らない証明ならば指輪という形でも充分だと思うのだ。それをわざわざ存在しない女、実際は女装したあの日の俺に操を立てるなど宣言せずとも、二人が良ければそれで良いと。

おずおずと玲央の真意をはかる俺に、まだ不機嫌そうな獣は大きく息をつく。


「だから言い方を変える」

「?」

「あんな格好つけたこと言ったけどな、本音はただ、俺がケジメつけてぇだけなんだよ、馬鹿トラ」


ケジメ。その言葉に目を瞬かせると、いくぶん表情の和らいだ玲央が俺の額に口付ける。


「お前を傷つけてきた俺が、いまさら欲しいだなんて滑稽だろ。それでもお前は俺を受け入れただろ。そんなお前を大事にしたいって思う自分に誓うケジメとして、二人だけの間柄で片したくはない」

「……でも、いつか後悔するかもよ? あぁ、馬鹿なことしたなーって」

「そんときはお前が俺を笑えばいいだろ、馬鹿トラ」

「……じゃあ、そうしようかな、馬鹿レオ」


ははは。声に出して笑った玲央が俺の首筋に顔を埋めてきた。


「……ねぇ玲央、」

「あ?」


器用に横に寝転んだ玲央が、俺の頭の下に自分の腕を差し入れる。筋肉質な逞しい、けれど温かな腕に素直に頬を擦り寄せた。


「今日、さ。玲央がショーから帰ってきて、俺がバイトから帰ってきたら、夜は二人で過ごすでしょ?」

「当たり前だろ」

「うん、そのときにさ、教えて欲しいな」

「なにを」

「玲央が母さんとどんな風に過ごしてきたか、教えて欲しいな。俺も、父さんとどう過ごしてきたか、ちゃんと話すから」


緩やかに囁く俺の言葉に玲央が目を瞠った。
そんな玲央に、ごめんね、と思わず口から声が漏れ出てしまう。


「もう簡単には別れられないってなってから、こんなこと言うなんて卑怯だと思う。もしかしたら俺の話を聞いて、玲央がやっぱり嫌だって思うかもしれない……ずるいよね、ごめん」


へにゃりと顔を顰めながら、無理に笑う俺の額を小突いた玲央が鼻先をかじる。驚いて呆ける俺に、玲央は満足そうに微笑んだ。


「お前こそ理解しろよ。俺がどれだけてめぇに惚れてんのか、いい加減理解しろ、小虎」

「…………っ」


ずるい、なぁ。そんなことを言われたら、もうなにも言えないじゃないか。
嬉しくて腹が立って愛おしくて、俺はだらしのない笑みを浮かべたまま、誰よりも愛しい獣に抱き着いた。




 


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