じわりじわりと膨らむ願望が堪らなく嬉しいなんて、以前は知らなかった感情が当たり前のように芽生えるこの幸せが心地いいなぁ。
「お前、卒業したらどうするつもりだ」
「え?」
なんて、一人勝手に盛り上がる俺に声を掛けてきた玲央の方へ顔を向けると、なんだか罰の悪そうな表情を浮かべる姿がぽつり。
少し状況を飲み込めず固まっていた俺だが、すぐに口を開くと同時に、玲央が声を出す。
「お前が言い出すまで待つべきなんだろうが、養う者としてお前の進路は聞いておきたい」
「……あ、えと……うん、その」
なんだ、これ。なんだこれは。
好きって気持ちや愛おしいって気持ちなら自覚してからどんどん増していって、もうこれ以上ないんじゃないかってくらいでいっぱいなのに、恥ずかしいと嬉しいで顔がどんどん赤くなる。
好きな人であって、兄であって、愛してる人であって、家族である人。
なんというか、幸せが二つ一気に押し寄せてくるような、そんな錯覚。
真っ赤に茹る俺を不審な目つきで見ている玲央に、ついに口を一文字に閉ざす。
「なに馬鹿面晒してんだお前」
「ぐ……っ」
しかし容赦ない一言で、無意識に止めていた呼吸を取り戻した俺が俯くと、そんな俺の頭を玲央がぐしゃぐしゃと撫でてきた。
「無理に聞くつもりはねぇよ。だから、焦んな」
「……えと……はい」
「なんで敬語なんだよ」
馬鹿トラ。なんて軽口を叩きながらくつくつ笑う玲央の手が、ますます俺の髪を乱す。
気持ちいいなぁと目を伏せたくなるその前に、そうっと顔を上げた。
「いま、は……まだ、言えない」
「へぇ」
「でも、ちゃんと言います。ちゃんと、この気持ちが形になったら、報告するって約束します」
やっぱり顔はまだ赤いまま、だけど玲央の目を見つめながらそう言うと、優しさの浮かぶ瞳を細めながら一言、待ってる、と兄は返事をくれた。
← →
しおりを挟む /
戻る