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あれから玲央に引っ張られるようにして家につくと、鍵を開けようとする玲央を見てふと思い出す。
俺は慌てて玲央を止め、自分が持っていた鍵で開けた。そんな俺の行動を怪訝な表情で見つめる玲央には悪いが、これだけは譲れない。

開いた玄関扉を前に、ひとつ息をつく。

終わったのだ。自分が巻き込まれ、結局は事の詳細を知る由もないこの茶番は、今、終わったのだ。
この扉の向こうには日常がある。俺と玲央の、それらを取り巻く日常が。
けれどあの茶番もきっと日常の延長線上にあって、ふとまた別の形で俺の前に現れるのだ。

だから、この場所だけは大切にしたい。
そうやって小さな差別をしなくちゃ、俺はもっと駄目になるから。だから、自分を守る日常を、俺は大切にしたい。

ノブを回して扉を開く。瞬間、鼻腔をくすぐる自宅の匂いはひどく優しくて。
もう一度ひとつ、息をつく。
俺は足を踏み入れて、続く玲央の方へ振り返った。

玲央はそんな俺をやはり怪訝な表情で見つめていたが、俺が微笑むとそれに返した。

俺との将来を優先したと言ってくれた玲央に抱くこの感情は、きっと普通じゃない。
抱きしめられたり、触れられただけで嬉しく思うこの感情は、きっと兄弟の域を超えている。
今なら素直にそれを受け入れることができる。だから、この溢れんばかりの感情の波に身を委ね、


「おかえりなさい」


俺は、愛おしい獣にそう告げた。

瞬間、目を見開いた黄金の獅子は口元を緩める。


「あぁ、ただいま」


俺以上に甘い声で告げた玲央はゆっくりと近づき、扉を閉める。少し急いたように俺を抱きしめると、会えなかった時間を確かめるように匂いを嗅いだ。はぁっ、と悦に入った声が俺の口から漏れるのを、獣は聞き逃さない。
まるで壊れ物でも扱うような優しい手つきで俺の後頭部を支えると、獣は甘い牙で俺の首筋に食らいつく。

このまま喰われてしまってもいい。

なんて、馬鹿なことを思った。




 


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