はっきりと告げられた言葉に一瞬で顔が熱くなる。繋いだままの手が澄んだ空気の中で火照って、恥ずかしい。
口を閉ざしたままなにも答えない俺に、玲央がちらりと視線を寄こした。
「まぁ、今回は撮影のタイミングに合わせて司が馬鹿しやがって、お前には寂しい思いさせたけどよ。あぁいや、そんなに寂しくなかったんだよな?」
「……前にちゃんと寂しかったって言いましたけど?」
以前のことをなぜか根に持っているのか、俺が茹ったタコのように顔を真っ赤にしたままジト目を向けると、玲央はいつのまにか視線を戻していて、言った。
「俺も寂しかった」
「へ?」
「メールも電話も、何回もしようか悩んで結局できなかった。お前との将来のために仕事優先してんのに、お前に寂しいって言われたらすっ飛んで行きそうだった。実際、言われたら無理してでも会いに行ってただろうしな」
「あの……玲央、酔ってる?」
「あんくらいで酔うか馬鹿」
繋いだままの手で軽く頭を小突かれて、その痛みで今が現実であることを思い知る。
つまり、あの玲央が、自分勝手でプライドの高いあの玲央が、寂しかったと口にしたのだ。俺に会えない時間を、寂しかったと言ったのだ。
「――……っ」
恥ずかしいやら疑わしいやら夢じゃないのか、なんて考えがグルグルと頭の中を駆け巡る中、最初に脳裏に浮かんだ思いは「卑怯だ」という感情。そんなことを言われて俺がどう思うのか、きっと玲央は知らないのだ。
なにか言おうと耽る俺に影が射す。何事かと上を向いた時にはすでに遅く。
「……やっぱ甘ぇ」
ひと気がないとはいえ、こんな住宅街のど真ん中で。まさかまさかの、玲央は俺にキスをしたのだ。
「れ、おっ!?」
「お前、次のテストで赤点取るなよ」
「へ?!」
こんな場所でなにをするのだと口を開く俺に、けろりとしている玲央は急な話題を持ち出す。百八十度どころではない話題の方向性に呆然とする俺に、玲央は笑った。
「テスト明け、旅行に行くから赤点は取るなよ。いいな?」
いいな? そう念を押す玲央に、俺はただ頷くことしかできなかった。
そんな俺の姿に気をよくした獣は、至極楽しそうに歩みを進めるのであった。
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