「……怒られに、来たのかな」
それからしばらくお粥と卵味噌を咀嚼していたノアさんが、ぽつりと呟く。
その声が聞こえていた俺と豹牙先輩は顔を見合わせ、俺は苦笑して、豹牙先輩は顔をしかめた。
「僕、には弟がいて……ノアは、ノアは少しやんちゃで、麻薬なんかに手を出して、二年前、そんなノアが死んだと報せが届いたんだ」
俯いて残り少ないお粥を眺めながら、彼はたどたどしく言葉を吐きだす。
俺も豹牙先輩も、もちろん仁さんもただ黙ったまま、いつもの仕事をこなしながらその話に耳を傾けた。
「僕は兄として、ノアを止められなかった。麻薬に手を出したときも、売人と親しくなったときも、家を出て行くときも……僕は、なにもできなかった。しなかった。だから死んだと聞いて、その手紙をくれた人に会いに来たんだ」
空に近いグラスを片付け、二杯目を彼の前に置いた仁さんが俺に微笑む。
「会って、多分……話がしたかった、と思う。ノアは、どんな風に成長してましたか、ノアは貴方にとってどんな人でしたか、ノアは……最期、なんて言ってましたか、そんなことを聞きたかったんだと思う」
本人も気づいていない涙を拭かせたかったのか、熱めのお手拭を彼の前に置いた豹牙先輩が視線を逸らしながら後頭部を掻く。
「でもその人は、ノアの罪を被って捕まっていたんだ」
「それが、巴さんだったんですね?」
「……うん」
静かに流れる涙が歪んだ頬を伝って落ちる。俺は卵味噌の鍋を混ぜながら、少しだけ目を伏せた。
「……そのとき、ツカサに声をかけられた」
伏せていた目を開け、そうですか、と答える。そんな俺の声に彼はごめんと謝るが、それは違うと首を横に振る。
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