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- ナノ -

23 - 3



離れる二人の背中を見送ったノアさんは、こちらに向き直ると拍手をする。


「扱い慣れてるんだね。見事だったよ」

「そりゃどーも」


嫌味くさい台詞に肩をすくめ、お粥作りを再開する。卵味噌を作る俺の手元を見つめながら、ノアさんは口を開いた。


「コトラはもう、気づいてるの?」

「なにをですか?」

「僕がこの街を発つことさ」

「それは気づく云々の前に、ノアさんがそう主張してますからね」


トランクケースを抱えてなにを言い出すんだと苦笑する。


「……僕がもういなくなるから、コトラはそんなに冷静なの?」

「いいえ、違いますよ」

「じゃあ、レオのおかげ?」

「いえ、それも違います。まぁ玲央に久しぶりに会って、充電はできましたけど」


充電? と小首を傾げるノアさんの前に、仁さんがモスコミュールを置く。そのチョイスが仁さんらしくて、俺はくすりと笑みをこぼした。
目の前に置かれた注文もしていないモスコミュールを見つめていたノアさんが、ぱち、ぱちと瞬きをしてから仁さんを見るが、彼はもう違うカクテルを作りはじめているせいか、微妙に罰の悪い顔をしたノアさんは、そっとグラスを指でつついた。


「この店は、とても良いところだね」

「ここには来てなかったんですか?」

「そりゃあね、そもそもこの街に来るのも初めてだし」

「へぇ……え?」


聞き捨てならない台詞に驚く俺を、今度は逆にノアさんがくすりと笑った。


「ノアっていうのは僕の弟の名前。双子だからとっても似てるみたいで、動きやすかったよ」

「……それ、は」

「うん、ツカサは知ってるよ。そもそもコトラ、君は僕とツカサが敵対関係じゃあないことを、もう気づいてるんだよね?」


しばらく考えてから、ノアさんの問いに頷く。
隣にいた仁さんはそんな俺をまじまじと見つめていたが、がしゃんっと物音がしてそちらを向くと、


「……どういうことだ、それ」

「豹牙先輩……」


仁さんに買い出しを頼まれていた豹牙先輩が、呆然と立ち尽くしていた。




 


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