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甘噛みであるはずのそれが、みちみちと皮膚にくい込んでいく音が聞こえた気がして、つい昔のことなど思い出してしまった。
ショートしそうな甘い痺れがそうさせているのか、それともこの永遠にも似た有限の時間がつい寂しくさせてしまうのか。
俺は多分、玲央に会えた瞬間にはもう覚悟など出来ていたのだろう。


「……玲央、もうダメ。充電はおしまい」

「……あ?」


現実は獣の歯がくい込んでいることなどなく、まるで甘えるように首筋を銜えこむ玲央は、見なくとも不機嫌であることが分かる。
グルグルと唸り出しそうな玲央がこちらを覗き込む。唇の隙間から白い息が漏れ出しそうな姿に、思わず笑ってしまった。そんな玲央の頬を撫でる。優しく、出来るだけ優しく、撫でる。


「これでも俺、結構怒ってるんだけど?」

「……」

「玲央のことは好きだけど、それとこれとは話が別だってこと、玲央なら分かってるよね?」

「……あぁ」

「うん、だから、充電はおしまい。ね?」


そう告げて、するりと手を離す。同時に体を起こす俺を、しかし玲央は止めることもできずに見つめていた。その姿にあるはずもない母性か父性がくすぐられて、可愛い人と呟きそうになるのを堪えた。


「俺の事、めいいっぱい甘やかしたいなら一秒でも早く、さっさと終わらせて来いよ、馬鹿レオ」

「……お前、」


堪えた感情を押しのけて、俺は今、上手く笑えているのだろうか?
その答えであるはずの玲央の表情は、驚愕から雄々しい獣の笑みへと変わっていく。

こちらを見つめて立ち上がった玲央が、俺の頭をポンポンと撫でた。


「いってくる」


ゾクリと、歓喜と寂しさの入り混じる、甘露がとろとろと溢れだしそうな感情を飲み込んで、


「いってらっしゃい」


俺は、愛おしむ獣にそう告げた。




 


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