あれから無事帰宅した俺と豹牙先輩は、付き添っていた西さんも一緒になって仙堂さんに叱られた。新山さんは後ろで笑っていたけれど、そのウザさにキレた仙堂さんが彼を殴った隙を見計らい、西さんはとっとと帰っていった。
不覚にも、ほんの少しだけ気持ちが軽くなったと思う。それを素直に認めてやるのは癪だが、いい加減甘んじるのは辞めにしよう。
「豹牙先輩、今日はお粥にしてみました」
「……や、わりぃけど俺は」
「ダメです、俺は今日から心を鬼にします」
「は?」
「豹牙先輩が食べないなら、俺だって新山さんだって仙堂さんだって食べません!」
「はぁ?」
おいおい小虎くーん? 俺たち関係なくなーい? なんてぼやく新山さんをキッと睨む。
「関係なくなんてありません。いい大人が寄って集ってなんですか、みっともない」
「えぇ? ちょ、仙堂、小虎くんがおこだ。激おこだ」
「新山さん、今は真面目に聞いたほうが良いと思いますよ」
怒る俺を冷やかす新山さんに、仙堂さんが頬を殴る。少しだけ気分がすっとしたことは言わないでおこう。くるりと豹牙先輩に向き直ると、彼は唖然とこちらを見上げていた。
「豹牙先輩も豹牙先輩です。あんな動画一つ見たくらいでなんですか。あんなスプラッタ映像、豹牙先輩ならリアルで見てるでしょ?」
「……や、さすがに爪を剥ぐのは俺も……」
「人を殴るのも爪を剥ぐのも似たようなもんです」
「いや、違うだろ……」
「いいえ、違いません。人が人を傷つけてることに違いはありません」
ピシッと言い放つ。論点がずれていることに俺自身突っ込みたかったが、誰一人として口を開こうとはしなかった。
「いいですか、豹牙先輩。あの日、俺が新山さんなんかに連行されたあの日、豹牙先輩は俺に今回のことを話してくれるといいましたね? 俺、ずっと待ってたんですよ? なのに先輩は日に日に弱っていって……俺、聞く勇気が出ないじゃないですか。ずるいです、先輩はずるいですよ」
「小虎……」
立ち上がろうとした彼の肩を、しかし俺はグッと抑え込む。
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