「小虎」
「あ、もう上がったの? ちょっと待って、もうすぐできるか――!?」
それから黙々と料理をしていると、カラスの行水ばりに早く上がった玲央に名を呼ばれた。
振り向かずにコンロの火を止めると、急に後ろから抱きしめられる。
驚きに身を固める俺を余所に、玲央は首元に顔を埋めて思いっきり匂いを嗅いでいる。に、二重の意味で恥ずかしい……!
「あ、あの、玲央?」
「あれはただの知り合いだし、抱き着かれても嬉しくねぇ」
「え? ……あ、うん」
「安心したか? 馬鹿トラ」
「あの、なぁ……っ」
あー、もう。俺の負けだ。負けでいい。
やっぱり玲央には敵わない。ていうか、勝つ気もないのだけど。
力を抜いた俺に気づいたのか、玲央が顔を上げるのが分かった。
そっと振り向いて見上げると、満足そうに微笑む獣の姿が。ちょっとだけ、むかつく。ので、俺から思いっきり抱き着いてみる。
一瞬強張った玲央の身体にフフンと鼻を鳴らして、俺も玲央の匂いを嗅いでやった。
……同じ物を使ってるはずなのに、なんで玲央はこんなに良い匂いがするんだろ。変なの。
「甘えたがり」
「……甘やかし」
「優しいだろ?」
「どこがぁ?」
「なんだ、言うようになったな」
「おかげさまで」
憎まれ口を叩いているのに、玲央は俺の頭を優しく撫でてくる。
背中に回った腕に少し身構えたけれど、温かさに身を委ねると、不快感など、どこにもなかった。
それから二人で夕食を済ませ、俺も風呂に入る。上がるとやはりソファーに座ってテレビを見ている玲央がいたけれど、そんな日常の風景がこそばゆい。
俺の気配を感じたのか、玲央が煙草を咥えたまま手招きしてきた。ふらふら近寄ると、体が宙に浮き、気がついた頃には玲央の膝の上。
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