*玲央side**
「おまっ、おま……おま、まっ!」
「なに言ってんのか全然分かんねぇよ」
本当は分かっているのだが、意地悪くそう言えば、司は後頭部を掻きながらため息を漏らした。
「……むかつく。同じ立場にいるから分かってますみたいなその態度、すげーむかつく」
「そりゃ悪かった」
「うっぜー……」
なにかを思惑しているとき、司は斜め右を凝視する癖がある。今、まさに目の前でなにかを思惑していた司がおもむろに俺を見つめてきても、恐怖はない。
「本当にいいのか? 駆け引きも仕組むのも無しで、お前の知らない小虎くんの五年、教えるけど?」
「いらねぇよ。いつかアイツが話してくれるまで待つ」
「……それで後悔しても?」
「あぁ、構わない」
今回のように、知らなかったことで悔やむことはきっとある。それでも他人から聞く小虎の情報など無意味だ。
なにより小虎を待たずに聞くことこそ、俺は絶対に後悔する。
一歩も引かないと分かったのか、司は缶ビールを開けて一気にあおった。
「お前が兄貴だと豹牙も苦労してんだろうな」
「はぁ? それを言うなら小虎くんでしょーが。あーあ、可哀想な小虎くん。こ〜んな兄貴なんてカワイソー」
「ありがとよ」
「けっ!」
空になった缶ビールを握り潰し、ゴミ箱に放る司が踏ん反り返る。
「ま、いーわ。どーせお前のことだからモデル業に専念すんだろ? 芸能界デビューってやつ? わースゴイナー」
「まぁな。事務所にも話はつけてある」
「知ってるっつーの。このあいだ来てた歌姫さんがそのスタートってやつだろ? デビュー前の一般人がいきなり大物のMVに出るなんて普通はねぇっつーの」
「あれはあっちから声掛けてきたんだよ。乗らない手はねぇだろ?」
「かーっ、やだやだ! カリスマ持ってる奴は言うことが違うわー!」
「そう思ってる相手を金ヅルにすんのもお前と匡子くらいだけどな」
「はははっ! 賢いと言えクソガキ」
俺が手をつけずにいた缶ビールを開け、ニタリと微笑む司に思わずため息が漏れた。
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