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*玲央side**


「……すまない、君を責める資格が僕にはないことも分かってる。それでも、僕は信じたかったんだ。
十六歳の小虎くんが嬉しそうに君と暮らせることを語る笑顔を信じたかった。現実は残酷で、また暴力をふるわれたけど君との関係を修復したいと頑張る姿勢を信じたかった。君が少しだけ小虎くんに歩み寄ったことを信じたかった。不安だらけのくせに、甘えたがりのくせに、泣き虫のくせに、君との生活を楽しんで、ここに来なくなった君たち兄弟のことを、信じたかったんだっ」


唸る男の言葉が正面から突き刺さる。これ以上の痛みを、小虎は知っている。


「……小虎くんはね、幼児退行することを知ってから気持ちのコントロールができるようになったんだよ。背中を見られても、幼児退行する機会が減ったんだ。ついにはならなくも成った。でも今、ここにいる小虎くんが真実だ。
君はまた、小虎くんを傷つけた。そうじゃなきゃ、この小虎くんがいるわけがないんだ……」


怨みがましい拒絶の瞳が俺を睨む。これ以上の撥無(はつむ)を、小虎は知っている。


「小虎くんにとって、お兄ちゃんという存在がどれだけ大切で大事なものか……誰より君が理解してくれ。そうじゃなきゃ、僕はきっと、君を怨んでも怨みきれない」


明瞭な嫌忌に息が詰まる。これ以上の厭悪(えんお)を、小虎は知っている。


「……其川、さん。アンタの言いたいことも、俺が聞かなきゃいけねぇことも分かった。俺とこいつに必要で、足りなかったことも分かった。それに気づかせてくれたこと、素直に感謝します。ただ一つ、これだけは言わせてください」


なのにこの馬鹿は知らない。そしてそれ以上に俺は知らない。
互いに知ることのなかった五年という月日がどれほど重く、無情なものかを。
けどそれ以前に、俺はお前に教えてやらなきゃいけないことがある。


「今も、これからも、この馬鹿な弟と、こんな最低な俺を信じてください。こんな俺たちのことを、アンタは信じろ」


お前が思う以上に自分が、そしてその兄貴が馬鹿だってことを、他の誰よりお前に教えてやる、小虎。




 


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