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「お兄ちゃん?」


拓美お兄ちゃんと難しい話をしていたお兄ちゃんは、少し強引に病院をあとにした。
帰りのタクシーから家に帰ってくるまでずっと無言で、怖い顔をしていて、でもずっと、俺の手を握ってくれていた。
上着を脱ぎ捨てるお兄ちゃんに声をかけると、横目でこちらを見るなりソファーに座った。


「小虎、ちょっとこっち来い」

「……ん」


ソファーに座るお兄ちゃんの前に立つ。
お兄ちゃんは俺をじっと見つめていたけれど、ゆっくりと手を伸ばし、俺の手に触れた。


「怖いか?」

「……え?」

「俺が触るの、怖いか?」

「……んーん、怖くない」

「じゃあ、」


そう言って、お兄ちゃんが手を振り上げる。とっさに目を瞑ったけれど、来るはずの痛みは来なかった。
恐る恐る目を開くと、なんだか痛いものでもあるような、辛そうな顔をするお兄ちゃんがいた。


「これは怖いか?」

「……怖い、けど……怖くない、よ?」

「なんで?」

「……だって、」


振り上がった手がゆっくりと降りる。今度は逆に、俺がそこに手を重ねた。


「だってお兄ちゃんのほうが、辛そうだもん」


そう言うと、お兄ちゃんはまた苦しそうになって、少し俯いたかと思うと、俺を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。


「悪い、驚かせたな」

「んーん。大丈夫」


労わるような優しい手つきで頬を撫でてくる。うっとりして自分からすり寄ると、お兄ちゃんはもう片方の手で頭をぐしゃぐしゃ撫でてきた。


「自分がどんな顔をしてお前を殴ってたかなんて覚えちゃいねぇけどな、いっつも俺のうしろにくっついてきたお前のことは覚えてる」

「……お兄ちゃん、ちゃんと待っててくれたよね」

「そう、だったかもな。多分、一応自覚はあったんだろうよ、兄貴だってな」

「……?」


首を傾げる。お兄ちゃんはちょっと笑って、俺を支えるように腰に手を置いた。




 


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