「嘘……これ、ほんとにトラ、ちゃん……?」
「随分化けたな……こりゃ、」
と、雄樹と仁さんが本日発売の雑誌を見ながら言う。
俺はそんな二人に視線を向けず、作りかけのお粥をじっと凝視していた。
「まぁ、匡子さんが上手く化かしてくれたんで。つーか雄樹、ここ笑うとこだろ? 笑ってくんねぇと逆に恥ずかしいんだけど」
「でも! トラちゃん! これっ!」
頼むから笑いネタにして流してくれ。
そう思う俺の気持ちを汲み取ってくれることはなく、雄樹は見開きのページを俺の顔面に押し付けてきた。
……そこには、ソファーに座り女性の腰に手を添え、自らに引き寄せ甘く微笑む男性と、そんな男性に頬を染めながら、少しだけムッとしている女性の写真――女装した俺と玲央が写っている。
完成した写真を見せてもらったとき、そのありえない現実に思わず卒倒しそうになるほど、そこにいたのは恋人同士の男女だった。
自分の膝に乗せた女性を支える男性の手はひどく優しげで、その外見からは想像もつかないほど穏やかに微笑んでいる。
そんな男性の頬に手を触れながら、少し顎を引いて上目づかいに見つめる女性は甘えているようにしか見えない。……そしてそれが女装した俺などと、絶対に認めたくはない。
「恋人同士にしか見えないよ! これ!」
「……俺の傷を抉って楽しいか? 雄樹」
そんな黒歴史決定の写真を俺にグイグイ押し付けながら、なぜか興奮する雄樹の目は輝いている。
仁さんは仁さんでそんな俺たちを見てクツクツ笑っていたが、雄樹を止めることも俺を助けることもない。
「今日発売だってのに、どこもかしこも売り切れらしいな。良かったじゃねぇか」
……むしろ雄樹に悪ノリしてきた仁さんをじとりと見るが、やはり彼は笑うだけだった。
はぁー。大きなため息を一つこぼし、完成したお粥を雄樹に渡す。
「ほらほら二人とも、仕事してください」
パンパンッ。手を合わせて仕事を促すが、二人とも雑誌と俺とを交互に見ては、含み笑いを浮かべるだけなのであった。
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