「すみませんっ!」
「あ?」
雄樹にバレない程度の声量で叫ぶ。リーダーさんは不機嫌そうに振り向き、俺を見るやいなや少しだけ驚いた顔をした。
「あの、すみません、ちょっとお願いが……」
「……なに?」
「これ、その……高科隆二さんに、渡して欲しいんです」
「は? 隆二さん?」
さらに驚いたリーダーさんの言葉に頷くと、彼はおもむろに頭のうしろを掻いた。
「あー……その、俺も聞いてやりてぇけど、隆二さんじゃ無理だ」
「え? ……そ、ですか」
「……でもまぁ、隆二さんじゃなくて、ブラックマリアのやつ経由なら頼めるかもしんねぇ」
一瞬意味が分からず彼を見つめていると、彼は小さく息をこぼす。
「クラス同じやついんだよ。だから、そいつに頼んでみる。で、渡すのはこれだけでいいのか?」
「……あっ! はいっ、これ返して欲しいんですっ!」
「おー、分かった分かった。じゃあよ、代わりに今度、違うもん作ってくれよ。卵も梅も美味いんだけど、……飽きるからな」
「あー……ははっ、ですよね。はい、了解です」
自然に出てきた笑みをそのままに、俺は若干照れくさそうなリーダーさんに五百円玉を渡した。
多分、これでどうにかなるだろう。
思わずスキップでもしそうな勢いで、俺は調理室へ戻っていった。
「――というわけで、新メニューを考えます」
「なんだぁ、トラ、お前やる気じゃねーの?」
「はい、今日の俺は本気ですっ」
放課後、いつものようにカシストにてお粥を作りながら、俺は仁さんに宣言なるものをした。
俺の言葉に「じゃあいつもは本気じゃねーのか?」なんてからかわれたが、今日の俺は一味違うぜ。
「じゃあねー、チョコレート粥がいいと思うのー」
「アホ山アホ樹くん、少し黙れ」
「なにその名前ー! ネーミングセンスひどーい!」
女性客に言われ、フリルエプロンだけだった雄樹は最近カチューシャまでつけている。そんなアホの発言をばっさり切って、俺はネサフで手に入れたお粥レシピを見つめる。
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