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15 - 12



翌日、母さんの墓参りへは皆で行くことになった。
祖母は朝からお弁当を作っていて、祖父はあのハイブリットカーを嬉しそうに磨いている。
玲央は財布だけを持ったらしく、俺はなにを持てばいいのか悩んでいると、祖父も祖母も「元気な姿一つで十分」と笑ってくれた。


「トラちゃん、ちょっといいかしら?」

「はいっ」


お弁当を風呂敷に包んだ祖母が俺を呼ぶ。そちらへ向かうと祖母は俺に花鋏を手渡した。


「お庭から好きな花を採ってきてちょうだい。お墓にお供えするからね」

「え? でも、俺が選んでいいんですか? その、母さんの好きな花……とか、分かんない、です」

「あらぁ、いいのよぉ。可愛い息子が選んでくれた花だもの。喜ぶに決まってるじゃない」


ね? そう言って微笑む祖母に、ゆっくりと頷く。
おずおずと庭先までやって来ると、昨日はあまり見ずにいたことを後悔した。
一般家庭とは思えないほど、手の行き届いた立派な花壇。色とりどりの花が風に吹かれながら、柔らかな香りを運んでくる。


「……」


けれど、そんな素敵な花を見ても、どれにすべきか迷ってしまう。
俺は母さんのことをなにも知らないのだ。

……でも、あの写真で見た母さんは、本当に綺麗な人だった。
あれほど愛おしく俺を抱きしめて、優しく、優しく名前を呼んでくれそうな人。
華奢な白い両腕をめいいっぱい広げて、眠る俺を大切にあやしてくれる人。
きっといい香りがして、その腕に抱きしめられただけで、俺は安心感に満ちてしまうんだ。


「……うん」


やっぱりここは無難な菊にしよう。でも小ぶりだから、このピンクの花も一緒にして、それから立派な百合も供えたいな。あと――ヒマワリも、供えよう。

祖母が愛情を込めて育てた花に、優しく花鋏を入れる。
パキッと独特な音がして、そのたびに気持ちが穏やかになっていく気がした。




 


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