「司、朝食だ」
「んー……」
俺の言葉に曖昧な返事を寄こす司に視線を向けると、どこぞの政治家の賄賂問題の記事を食い入るように見つめている。
その政治家、このあいだ駅前で演説してなかったか?
「司」
一向に朝食を取ろうとしない司の口元に、作ったガーリックトーストを運んでやる。
すると司は新聞からは目を離さずに口を開け、俺のペースで咀嚼する。
まるで親鳥のようだと笑いながら、結局はデザートまで俺が世話をするハメに。
自分もさっさと朝食を済ませ、学ランに着替え終わった頃にはさすがに新聞も読み終えていたが、今度は司自慢の6面モニタを眺めていた。
一つ一つ違う情報が表示されているというのに、司にはそれらを同時に処理できるだけの脳がある。我が兄ながら末恐ろしいことだ。
「じゃあ学校行ってくる」
「豹牙」
仕事の邪魔はしたくないので、さっさと学校へ行こうとバイクの鍵を持つと、モニタから目を離さずに司が俺を呼んだ。
「いつもの交差点は避けてね」
「……あぁ、いってきます」
「いってらっしゃーい」
バタン。扉の閉じる音を背に、肩を竦めてエレベーターへ向かった。
司に言われたとおり、俺は普段通学用に通る道を避けて学校へ向かった。
どうせここで学ぶものなどなにもないのだが、高校だけは卒業しときなよ、という司の言葉があるので通っている。
雄樹に譲った調理室ではなく、新たに場所取りで勝ち取ったコンピューター室へ行くと、すでに友人たちがダベっていた。
「おー、豹牙ー、無事だったん?」
「ん?」
「お前いっつも通る交差点、事故あったってさ。三年の先輩らが言ってたよー」
「ふーん? まぁ、日ごろの行いが良いからじゃね?」
「はぁ? お前の行いのどこが良いんだっつーの」
ゲラゲラ。笑う友人たちには悪いが、まぁそんなことだろうと思ってたわ。
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