カシストも玲央もいわばメインで、当の本人がオプションってどうなの?
「それでも協力しちゃうトラちゃんって仙人みたいだねー」「雄樹、それを言うなら聖人な」――なんて、事のあらましを知る二人の反応が頭の中をよぎった。あぁどうせ俺は根っからの日本人ですよ!
「ね、家まで送ってくれるよね?」
「ん? うん。でも帰りが遅くなるけど、いいの?」
「いーよ。普段から遅いし」
「……」
調理場に戻った俺の向かえ側で、少し大人しくしていた由香里ちゃんが頬をふくらませる。
いつもは彼氏がそのまま家に送ってくれたんだろうな。
俺のそんな気持ちがバレたのか、由香里ちゃんは若干眉を下げてこちらを見つめた。
しかし、由香里ちゃんの彼氏は今どこでなにをしているのだろうか?
俺たちの浮気ごっこはもう二日になるし、堂々としているのだから仲間内でも目撃されていることだろう。
ならばきっと、その情報は彼氏の元へ届いているはずだ。本当に彼女が好きで、誰にもとられたくないのなら、早く迎えに来るものじゃないのだろうか?
――なんて、そんなことを考えていたとき、店の入り口から小さな叫び声がした。
瞬間、店内の空気が重くなったのを肌で感じ取る。おそらく、視線を向けるのではなかったと、俺と同じことを思った人間もそう少なくはないだろう。
「こえー顔して店来てんじゃねーぞ玲央、営業妨害もいいとこだ」
「わりぃな、ちょっとそこの馬鹿借りるぞ」
「へいへい。荒らすなよ?」
「荒さねーよ」
店内にいるほとんどの人間が恐怖でおののく中、ものともしない仁さんとは反対に、明らかに怒っている玲央がそう言って調理場にいる俺をスタッフルームに引っ張った。
ドアが閉まるその前に俺が見た光景といえば、玲央と一緒に来ていた男が由香里ちゃんに殴られているシーンであった。
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