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じわりと、冷えた箇所が温かみを持ち始める頃には、俺の頭は見事なまでに空っぽで、今まさに目の前で起きているこの状況が霞んで見えていた。
それは涙がこぼれたからではなく、あまりにも遠い場所にあるからだ。

俺は志狼のことを勝手に大人だと思い込んでいた。そう振る舞う彼の姿があまりにも上出来だったから。
だけど本当は違う。俺が見ていた志狼の一面はあくまで一面で、彼自身のほんの少しでしかなかった。

どんなに俺から見て大人でも、梶原さんから見れば志狼は子供で、それまで蓄えてきたなにを持ってしても覆すことのできない経験は、残酷なまでに優しい。


「……俺は、あの人たちが思うほど立派じゃないし、まだ子供だってことも自覚してる。でも……これしかなかった。これしか、分からなかったんだよ……っ」

「えぇ」

「俺はあの人みたいに立派じゃないっ、あの人には、なれない……っ」


静止していた志狼の肩がふたたび揺れ動く。そこに存在する感情を俺はよく知っているし、これからも見ていくものだと思う。
だからこそ、今この瞬間から目を背けることはできない。


「そんなの当たり前じゃない、志狼。アナタはアナタよ。あの子になれるわけがないの。
十分だと思うわ。十分、アナタは我慢してきた。アナタが起こした行動は正しくないかもしれない、けど、アナタが限界だったことを伝えるには、十分すぎるのよ」

「……っ」

「やっぱりアナタとあの子はそっくり。……優しい子」


目の見えない彼女にしか見ることのできない景色を想像しても、俺には分からない。
けれど志狼に向ける温かな笑みが答えであるのなら、きっと彼にも伝わっていることだろう。


「両親のためにいい子でいたのね……でも環境に我慢できなくなって他人を傷つけた……。
忘れないでね志狼、あの子たちはね、そんなアナタに失望したわけじゃない。
きっと、そんなに追い詰められるまで苦しんでるアナタが、誰よりも自分たちになにも言ってくれなかったことに、戸惑っているだけなのよ。

だから言ってやりなさい。アナタが今までどんなに我慢してきたか、アナタがどんなにあの子たちに、たくさん傷つけられてきたかをね」




 


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