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カリッ、カッ、カリッ。
なかなか刺さらないストローの音しか個室にはない。
俺は動いてもいいのか分からず志狼を見るが、彼女の腰掛けるベットからひと一人分離れて立つ志狼はまったく微動だにしない。
いてもたってもいられず、彼女の元へ歩み寄った。そして素早くパックにストローを刺し、志狼より後ろに置かれた丸イスへと戻る。


「……ちゃんと、ご飯は食べてるの?」

「……」

「学校は……あぁ、まだはじまってないかしら……。もう、ここには慣れた?」

「……」


梶原さんのどこか弱々しい声に志狼はなにも答えない。
まるで時間が止まったかのように静止するその後ろ姿からも、異様な雰囲気は感じ取れた。


「……やっと、会いに来てくれたのね、ありがとう」

「……で」

「え?」

「なんで、俺のことを引き取ったの」


ついに発した志狼の声に体が冷たくなる。
どこまでも拒絶を感じさせるその低い声音に、それまで微かな笑みを浮かべていた彼女の表情すら消えた。


「……どうしてだと思うの、アナタは」

「……仕方なく、だろ」

「どうしてそう思うの?」

「……っ、アイツらがっ、俺のこと扱えなくなったからだろ……っ」


決して叫んだわけではない。でも、確かにそれは志狼の悲痛な叫び声だった。
なにかしらの感情で震える肩が、ビクッと小刻みに揺れる。


「優秀だったそうね、アナタ」

「……っ」

「親の期待に応えようと、県内一の名門校に通って、大人の顔色を見ながら色んなことをこなしてきた。まるで絵に描いたような立派な優等生だわ」

「――だからなんだよっ!」


キンッ! 耳を刺すような痛々しい声が病室に響き渡る。
驚いた俺の体が丸イスを動かしてしまったらしく、ギギッと床に擦れる音までした。

それでも敵意を受け止める彼女はピンッと胸を張り、険しい顔つきのまま志狼を見据えていた。




 


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