「辞めなくて、いい」
「…………へぇ?」
もしも俺の考えが当たっていたとして、それが事実であったとしても、それはそれだ。
俺はなにも玲央に我慢してまで兄貴面をかまして欲しいわけじゃない。
そりゃ、互いにもう子供ではないのだから、仲良く手を繋いでお買いもの、なんてことは願わない。
でも、甘えたいし、頼りたいし、なにかあったとき、一番に叱って欲しい。
「俺は、別に玲央が不良やってて、それで巻き込まれても平気だよ。だって、それは俺が玲央の弟だから仕方ないんだろ?」
「……まぁ、そうだろうな」
「あ、でもそうじゃなくて、なんていうか、だからな、俺も我慢しねぇし、だから玲央にも我慢して欲しくないんだ。そりゃ応援する気はないし、喧嘩とか見てて痛々しいけど、でも」
でも、だからって無理して兄貴面なんか、かまして欲しいわけじゃない。
「玲央の居場所を減らしてまで、弟として我儘を言うつもりはないんだ」
「……」
「だからって、まぁ、我儘ばっかりも困るけどな」
ははっ。笑ってしまえば軽いもので、俺の気持ちはふわふわと空に浮いたように身軽なものになっていく。
視界にいる玲央はそんな俺に驚きもせず、ただ優しげな笑みを浮かべていた。
「……本当は、お前がそう言うことも予想できていた」
「……え?」
「俺がお前に甘えるなんて筋違いだろうけどよ、だがな、お前はそうして俺を立てようとするから、そこに甘えてんだろうな、俺は」
「……」
甘えている。その言葉が玲央の口から出てきたことにも驚いているが、そうして口に出すその行為にこそ俺は驚いていた。
でも、でもな、玲央。
「それって、悪いことなの?」
「……さぁな。普通の兄弟ならなにも悪くはねぇだろうけど、俺とお前の場合は違うからな、筋違いだろうよ」
「……普通じゃなきゃ、甘えることも甘やかすこともしちゃ……ダメなの?」
「いいや。それは俺とお前が決めることだ」
「……なら、」
なら、俺は。
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