「まずは謝るわ。急に連れ出してきてごめんなさい」
「……いえ、それは、全然。こちらこそ、朝ごはんとか、缶コーヒーとか、色々ありがとうございます」
「うん、どういたしまして」
座って早々に話を切り出される。
それでも嫌な感じがしないのは、彼女が大人だからだろうか。
「で、早速だけど、君は玲央のこと、どう思う?」
「……どう、って言うと」
「うーん……私はねぇ、いや、私たち、かな。ま、知らなかったのよ。つい最近まで玲央に弟がいるってこと」
「……はぁ」
「いや、嘘ね。本当は知っていた、なにか隠してるなって。だから本人が言うまで待ってたのよね、それでつい最近、やっと玲央が言ったわけ、弟がいるって」
「……」
「だからさぁ、玲央と弟……小虎くんにはなにかあるんだなーって、普通に思うじゃない?」
笑ってこちらを見る彼女に、どう返せばいいか分からなかった。
言い淀んでいれば、気にするでもなくまた彼女から口を開いた。
「でもねぇ、私は泉から聞かされてたわけ、玲央に弟がいて、その弟はカシストでお粥作ってるって。そして、お人好しだって」
「……はい」
風が頬を撫でていく。彼女の明るい茶色の髪が、さらさらと揺れている。
「だからお人好しな小虎くんと、玲央がどんな生活をしてるのかなーって、不躾な好奇心を抱いてたのよ」
「……」
なにかを思惑している。俺の頭の中で分かるのは、俺がなにかを思惑している、ということだけ。
そんな俺に気づいたのか、彼女は慌てるように体を向けた。
「あ、違う違う。変に警戒しないで? もし良からぬ事実があっても、それを公にするつもりはないから」
「……はい」
「あー、えーと、ねぇ。なんていうか……心配、だったのよ」
「……心配?」
ベンチの背もたれに背中を預けた彼女が、フッとどこか遠くを見ながら笑った。
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