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「……教えて、欲しいことがあります」

「なぁに?」


絞り出した声の情けないこと。俺は一度息を呑み、浅い呼吸を繰り返した。
意気込んで、そっと彼に目を向ける。


「どうして……どうして俺に、そんな話をするんですか」

「……へぇ、小虎くんって意外と……いや」


なにか驚いたような、それとも興味のあるようなどこか無垢な瞳が俺を見る。
その瞳に一体どんな感情が潜んでいるのか、俺にはまったく分からない。


「じゃあ逆に、どうしてだと思う?」

「……」


質問を質問で返される。居心地の悪い思いに心臓がズキズキと痛みだす。
ギュッと拳を握って、口を開いた。


「朝日向玲央の……弟だから」

「なんだ、分かってんじゃん」


ははっ。音もない部屋で司さんの笑い声がいやに目立つ。
今すぐこの場から逃げ出したくなった。でもそれじゃ、きっと意味はない。


「俺、別にブラックマリアがどんな経緯でできたとか、兄貴が不良としてなにやってるとか、聞きたくないって言えば嘘になりますけど、聞いたからってどうもしませんよ?」

「う、わー。出たよ、それ」

「はい?」

「偽善者」


にこ。微笑む司さんに冷静さが音を立てて崩れていく。
自制のためにもう一度拳を握れば、鈍い痛みが走った。


「知りたいくせに無理してさぁ、聞いたよ豹牙から。受け入れるんだって? ――自分を殴りつづけてきた兄を」

「……は?」


一気に空気が拡散した。ちりちりになったそれが空中を舞えば、元に戻るのはもう、難しい。
ふわりと微笑む司さんが立ち上がる。部屋にある小さな冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、一本を俺に投げつけた。


「ねぇ教えてよ。なんで自分を殴ってきた玲央をさぁ、そんな簡単に受け入れられるわけ?」

「……」


手にある缶ビールが冷たい。俺はこんなものを握るために……違う。そうじゃない。




 


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