「小虎ー?」
「んあ?」
水曜日、バイトも休みの俺は迎えに来てくれた志狼と共にバスに乗っていた。
雄樹は「仁さんとイチャイチャするんだもんねー!」とか言って帰って行ったが、多分俺と志狼が遊びに行く邪魔をしたくなかったんだろう。そういうところには気がついて身を引いてくれるやつだもんな。
……んで、あとで泣きつくんだけどな。今度は三人で遊びに行こうな、雄樹。
「どうしたの、さっきから。ずっと眉間にしわ寄ってる」
「え? あ、ごめん」
「いいよ」
夕方とあってか混んでるバスにて、二人席をゲットした志狼は俺を窓側にして座っている。
周りの女子高生たちが目を輝かせて志狼を見ているが、志狼は気づいているのかいないのか、俺のほうばかり見ていた。
「バス、嫌い?」
「え?」
「それとも俺と出かけるの、そんなに嫌?」
どこか優しげな志狼の笑みに固まってしまう。俺、なにしてんだろ。
「……」
「小虎?」
あー、くそ。これじゃあ俺、ただの馬鹿じゃねぇか。
学ランの裾で口元をゴシゴシ拭って、志狼に微笑む。
「逆。嬉しくて困ってたとこ」
できるだけ普通に、いつものように笑ったつもりだ。
だけど志狼は目を丸くして……かと思えば柔らかな笑みを浮かべて「そっか」とだけ、呟いた。
それから数分バスに揺られたあと、俺と志狼は駅前にやって来た。まずは駅前の店なんかを教えてやり、志狼の希望で本屋なども教える。
案内とは言ってもそんなにたいそうなこともできないのだが、こんなのでいいのだろうか。
駅ビルや駅前ビルの中をうろついたあと、志狼は駅前にある喫茶店に入ろうと提案してきた。その喫茶店は以前、俺と兄貴が足を踏み入れた場所で。
こんなことでも兄貴を思い出してしまう自分がブラコンっぽくて、俺は拭うように喫茶店の扉を押した。
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