志狼と出会った翌日、気が向いたらしい彼はカシストに現れた。
ただ、店にいた連中は一様に目を瞠(みは)り、返り血で染まった元は白いだろうシャツを着る彼は平然としていたが。
「志狼……」
「なに、小虎、料理出してんの? バイトじゃなかったっけ?」
「あ、うん。バイト……お粥担当だけど」
「お粥担当? ははっ、なにそれ。まぁいいや、じゃあお粥ちょうだい」
「お、おう……」
やはり平然としたまま俺の前にあるカウンターチェアに腰を下ろす。舌打ちをした仁さんがスタッフルームへ消えたかと思えば、志狼にタオルを投げつけた。
「おいガキ。人の店に血ぃ付けんじゃねぇよ」
「小虎の上司? ふふ、うん、分かった」
年上である仁さんにたいして随分な態度である。それが雄樹レーダーには敵として判断されたのだろう。アホはがるるるる、なんて唸っている。
きっとそれにも気づいてるだろう志狼は投げつけられたタオルで顔の血を拭くと、メニューなど見ずにオーガズムを頼んだ。なんつーチョイスだ。
「喧嘩してたのか?」
「ん? あぁ、売られたから」
「ふーん」
「喧嘩するやつは嫌い?」
「え? いや、別に。そもそも不良に喧嘩するなって言うほうが無理だと思ってるから」
「ふーん?」
ニコニコ。昨日とは随分態度が違う。それでも上機嫌な志狼をあえて刺激するつもりもないので、俺はさっさと卵味噌つきのお粥を作りはじめた。
未だ唸りつづける雄樹がヒョイッとカウンターに入り込む。そのまま俺のもとに近寄って、ぼそりと言ってきた。
「あれ、友達?」
「え? ……あー、どうだろ。知り合い?」
「……はぁー」
返事を返せばため息をつかれた。なんだよ、おい。
「っほんっと、トラちゃんってさー、無防備っつーか常識知らずっつーか」
「あぁ? アホに常識論されるほど俺は落ちぶれちゃいねーぞ」
「落ちぶれてなくてもねー! 俺が嫉妬するでしょーが!」
ポコンッ。軽く肩を殴られたと同時にキュンッとした。なにこのアホ、可愛い。
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