「粥」
なにが「粥」だ。偉そうに足組んで言ってんじゃねぇよ。つーかなんのお粥だよ、ちゃんとそこを伝えろよ。
「……はい」
なんて思っていることをまさか兄貴に言えるわけもなく、俺はしぶしぶカウンターへ戻っていった。
こんな風景がカシストで見られるようになったのは三日前、カシストで乱闘が起きた五日後からである。
「仁さーん……俺の心がめげそう。雄樹貸して」
「おー、一時間いくらで借りるよ?」
「じゃあ一円で」
「いいぜ」
「よくねーよ!?」
カウンターに戻った俺が仁さんとアホな会話をしていれば、それを見守っていた雄樹が突っ込みをいれる。あぁ、やはり雄樹は癒しだ。
「つーかなに!? 俺の貸し借りって! 俺のために争うのはヤメテ!」
「ところで仁さん」
「まさかのスルー!」
アホな雄樹はとりあえず放っておいて、俺は真面目な話を仁さんに切り出した。
いや、そこまで真面目……でもないのだが。
「……なんで」
「あ?」
「なんで……カシストはこんなに混んでるんでしょう?」
そう、今カシストは絶頂を迎えていた。
ワンフロア吹き抜けのシックなバーには、到底不釣り合いな不良少年、少女たちがひしめきあっているのである。
「玲央がいるからだろ?」
「……ですよねー」
その理由というのが、やはり俺の兄貴――玲央のせいだった。もとい、ブラックマリアのせい……おかげである。
デスリカを溜まり場にしていた兄もといブラックマリアは街の不良少年、少女の憧れの的であり、そんな彼らがデスリカにいるとなれば、人が集うのは時間の問題だ。
しかしそのブラックマリアがデスリカではなく、今はカシストに集っている。必然的に彼らを慕う人間たちもそこに集ってしまうのである。
おかげで、ここ三日間カシストは今までにない大盛況を迎えていた。
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